生存本能。あるいは俺の懺悔。

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 闇に溶け込むような様な黒猫の、瞳だけが金色に光っていた。  ……なんだよ。ネコかよ! 驚かせんなよ!!  マジ心臓止まるかと思ったじゃねーかよっ!!!  つうか、ベランダ開いてたっけ? いつから? どおりで寒いと思ったよ。  暖房つけねーとマジで寒ぃじゃん。ああでもダメだ。暖房なんかつけたら腐るの早まるよな? くそ、閉めねーと、凍える。  猫が気づいたくらいだから、他にも目撃者が出ないとも限らない。  俺は窓を閉めようとベランダに近づいた。  すると、何を思ったのか猫がスルリと部屋の中へと入り込んできた。 「うわっ!」  猫の素早さに驚いて、思わず尻餅をつく。 「勝手に入ってくんなよ!」 「ナァ~ン!」  俺の言葉を無視して、猫はノシノシと部屋を闊歩したかと思うと、加奈子の傍で立ち止まった。なんて太々しい。  猫は、まるまる太っていた。  お腹がデプンと張り出して、いかにもボス猫の感がある。  そいつは、じいと俺を見つめていたかと思うと、何やらスンスンと加奈子の頭の匂いを嗅ぎはじめた。 「なにしてるんだよ!」  カッとして叫んでいた。しかし、すぐにヤバいと思って自分の口に手を当てる。  今は夜中の12時をまわったところ。  騒いで近隣住民が起きだしたりしたら、たまったものではない。  ジリジリと足を忍ばせる。ノラ猫に触るのはとんでもなく嫌だったけれど、家から追い出すためには仕方ない。  しかし、猫は俺が数歩近づいただけでパッと顔を上げた。 「ニャアァァァァッ」  やけに長い鳴き声を上げる。真ん丸の黄色い目玉の中で、黒い瞳孔がブワッと大きく広がった。 「な、なんだよ……お前、出てけよ」 「フゥゥゥ……――シャアアアッッ!!」  弓なりに体を曲げた猫は、全身の毛が逆立ってタヌキのように膨らんだ。  デブ猫がさらにデブになったわけだ。  急激に、俺の戦意がしぼむ。  俺は、猫が苦手なのだ。  くそぉ……なんでネコなんかが入ってくんだよ!!  睨むなよ! そんな顔して、威嚇すんな!!  俺は、お前ら猫が大っ嫌いなんだよっっ!  犬みてーに、懐かねーし、すぐ噛みついてきやがるし。  特にその目。気味が悪ぃ。  加奈子は瞳孔が開いたネコを『カワイイ、カワイイ』って言ってたけど、本当に可愛いかぁ? だって見ろよ。あの目。シューっと細くなったら、なんか化け物みてーじゃん。  待てよ……こいつ、見たことあるな。
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