生存本能。あるいは俺の懺悔。

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 そうだ、そうだよ、思い出した!  コイツ、前にもココん家に上がってやがった!  あん時加奈子がエサやってて、俺がやめろって言ったら加奈子のヤツ、反抗しやがったんだよ。  『こんなにカワイイのに、どうして嫌がるの?』なんて言いやがって!!  あの女、俺が見てないとこで、何度も餌やってたんじゃねーのか?  だから平気で入って来やがったんだ、このネコはよ。  すぐに加奈子の傍に行きやがったし。  生憎だな! 加奈子はもう動かねーよ。だから、お前に餌をやるヤツなんて、ここにはいねーんだ。  わかったら、さっさと出て行けよ。  出て行ってくれよぉぉぉぉぉぉ!! 「だ、だめだ……寒い。むりだ!」  加奈子の傍にジッと立って動かない猫と対峙すること、30分。  先に根負けしたのは、俺の方だった。  吹き込む真冬の風の冷たさに手足がかじかんで、感覚がなくなっていた。  なんとかベランダの窓を閉めて振り返ると、猫が加奈子の頭部の傍らに座り込んで、自分の前足をペロペロと舐めていた。  猫は、あれっきり鳴き声ひとつ上げていない。 「のん気なもんだよ」  呟くと、猫がピクリと耳を立てるのが分かった。それなのに、俺を見ようともしない。  舐められているような気分になって、俺は無性に腹が立った。  やっぱり追い出してやる。  そっと立ち上がる。 「ニャア~……アアア!」  どんな鳴き方してるのか、不気味に長い声が部屋に響いて、俺は足を止めた。  ヤツは俺が近づくことを許す気がないらしい。 「くっ……ふざけんな!」  構わず、大股に近づいて手を伸ばすと、シュッと猫の手が俺の腕を掠めた。 「いっ……いでぇ!!」  想像以上の打撃と、鋭い爪の餌食になって、俺の腕から鮮血が溢れだす。 「フシュゥゥゥゥゥ!」  息を吐き出して、尚も攻撃を続けようとする黒猫の顔は、まるで般若のようで。  やはり、俺はあきらめざるを得なかった。  ジワジワと熱を持つように痛む腕を抑えて、猫から離れる。ベランダに背を向けて座り込むのと同時に、猫もまた、加奈子の頭部に寄り添うように座り直した。  まるで、加奈子を守る守護神……いや、守護猫のようだと思った。  カチコチと、時計の秒針が進む音が響き続ける。  猫と向かい合ってどれくらい経っただろうか。  閉め切っているとはいえ、暖房もつけずにじっとしていると、寒い。  猫のヤツは、寒くないのだろうか?
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