生存本能。あるいは俺の懺悔。

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 アイツはアイツで、動く様子がない。  加奈子は、そろそろ硬くなり始めているのだろうか?  それが気になった。  死体のことは良くは知らないが、死後硬直ってヤツが始まると、遺体を切り刻むのに苦労しそうだと思ったのだ。  漫画で読んだ限りでは、寒いと硬直が始まるのも遅れるってことだったと思う。  であれば、まだソレは始まっていないのかもしれない。  いずれにせよ、猫と対峙したまま座り続けていれば、いつかは加奈子が硬くなりソレが解けて、今度は腐っていく。  その前に何としてでも処理をしたい。  それなのに、俺は立ち上がるどころか、身じろぎひとつ出来なくなっていた。  ほんの少しでも動くと、猫が俺を睨み付けるからだ。  ジッと、こちらを見つめる瞳が、俺を縛り付けていた。 「フアァ……ッ!」  不可解な音に、ビクリと心臓が跳ねる。それと同時に目をあけて、俺は自分が寝入っていた事に気づく。慌てて時計を見ると、1時間ほどが経過していた。  俺の視線の先では相変わらず猫が、加奈子の隣を陣取っている。ソイツが大きく口を開けていた。  さっきの音は猫の欠伸だったらしい。  猫も欠伸をするのだと、俺はこの時初めて知った。  アイツも眠いのか?  そういや、さっきよりリラックスしてるんじゃねーのか?  前足に頭をのっけて、尻尾もユラユラ振ってやがる。  死体の隣で寛ぐなんてよ、どういう神経してんだよ。  ……それを見てる俺も俺だけどさ。  でも仕方ねーじゃんなぁ。ネコと加奈子をこのまま放っていくわけにいかねーもん。  ああもう、いつになったら死体を処理できるんだよ!  勘弁してくれよ、マジで。 「勘弁してくれよ、マジで」  夜中の3時を回ったくらいで、泣きごとを口にしていた。  いい加減、死体と猫を見つめたまま――いや、猫に見つめられたまま黙って座っているのも限界だった。  猫は、時折体を伸ばしたり耳を伏せたり尻尾を振ったり、俺なんかいないように振る舞う。その度に、暗闇で蠢くソイツに俺はビビッていた。まるで加奈子が動いたかのような錯覚に囚われそうになる。  そして、猫のヤツは俺が声を上げたり体勢を変えたりするたびに、あの目を向けてきた。薄暗い部屋の中で光る、金色の目。  そもそも何故、この猫はこの部屋に留まり続けているのだろう――?  餌をくれるはずの加奈子は動かない。  それに、俺という敵までいる部屋に。
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