7799人が本棚に入れています
本棚に追加
魔術に疎い奴とか冶金を知らない奴には解らんだろうが、あの炉は旧世界の遺物だ。
その証拠に炉には薪も木炭も、凡そ燃料になりそうなものは何も焼べられていない。
青白い炎がチロチロと動いているが、それを発しているのは ”熱を宿した魔鉱石” の数々--。
莫大なエネルギーを放つ ”蝋燭石” と言えば分かり易いだろうか。
延々と高熱を発し続けるだけでなく、温度の調節すら可能な-- まぁ要するに、鍛冶をする上では究極の熱源なのだ。
「ひょっとしてここの道具は、全てナナさんが?」
「半日で用意してくれた…… いつかナナに恩返ししなきゃって思う……」
「(どっからこんなモン持って来やがったんだろーなぁ、こりゃ俺様もビビったわ)」
「(熱魔鉱石の炉ってだけで目玉が飛び出そうなのに。 それにあの道具は何だ、見たところ鉄とかじゃないぞ、未知の金属なんじゃぁ……)」
一歩、また一歩と炉へ近付く度に、チリチリと熱が届く。
正面に置かれている金敷は歴史を感じさせる年代物だが、天辺の部分には歪みの一つも見られない。
隣に転がっている鎚で、その天辺を叩いてみると、
カキィーン。
超硬質のガラスみたいな音だ。
こんな高い音を出すなんて相当に硬いぞ。 もっとこう、鈍い音かと思ってたんだが。
鋼を始めとする金属の硬さと脆さは、熱処理によってある程度のバランスを持たせる事が可能だが、ここまでデタラメに硬いとメチャクチャ脆くなってしまう。
まぁ、オルレアンの受け売りなんだけど。
こんな道具を使って、一体どんな仕事をしてるんだか。
「お客さんがここに来た理由は、それでしょ……?」
「お見通しって事ですね」
彼女は俺の手から剣を受け取ると、ゆっくり舐め回すように品定めを始めた。
最初のコメントを投稿しよう!