一年目~桜と白球の頃

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「高校の部活、どうしようかな。硬式野球部はあるけど女子はマネージャーやるか、ソフトボール部入るしかない、って言われちゃったんだよね」 俺らの高校は北峰(ほくほう)高校という。普通科と工業科を併設した私立高校だ。通称“キタミネ”。数年前まで男子校だった。「男女共同参画社会に即した多彩な人間教育のため(訳:少子化の今日びシャッター街で男子校なんかやってたら潰れてしまうので)」数年前敢行された共学化以降も入学してくる女子は測定誤差並みに少ない。それ以外、北関東のとある町中の、偏差値も部活も特にパッとしたとこのないごく平々凡々とした学校だ。 記念すべき高校生活の一日目、ネイロとそんな会話をしたのを覚えている。 北関東でも平野部では下手すると春休み中に桜が満開を迎えてしまう。俺は最後の桜が雪みたいに舞っているのを、北向きのひんやりした図書室の窓から眺めていた。オリエンテーションやら健康診断やらITリテラシー講習やら防犯研修やらで数日が過ぎ、いよいよ俺達は高等教育のカリキュラムに組み込まれようとしている。 各部活の新勧も始まっていた。下手に帰ろうとして廊下や校門付近で知らない先輩に捕まるのも嫌だったし、同じ中学出身で顔だけ何となく覚えてる程度の先輩に馴れ馴れしく声をかけられるのはもっと苦手だった。新歓イベントのほとぼりが冷めるまで俺は図書室で過ごすことにした。年度始め早々本を借りに来るような暇人は少数派らしく、なかなか快適だ。時々スマホの使用を図書委員の先輩に見咎められさえしなければ。
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