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そんなある日、妹が遊びに来た。
正確には街へ遊びに来たついでに休憩がてら立ち寄ったというところだ。
妹が猫を見るなり「ミケコだ」と言った。
ミケコが車に轢かれたことは知っていたはずだし、十年も前の、実家の近所にいた猫が、僕の部屋に居るはずもないのは、妹もわかっている。ただ、妹にしてみれば、三毛猫はみんな「ミケコ」なのだろう。言われて僕もミケコを思い出した。
そう思うと何だか模様も似ているような気がした。
「そうだ、お前、名前付けてなかったな。ミケコにしよう」
僕がそう言うと、三毛猫は嬉しそうに、にゃあと答えた。
それから、またしばらく過ぎて、僕は転勤することになった。地方の支店だけど、役職がつく。一応、出世だ。
「ミケコ、どうしようか。お前も一緒に来るか?」
僕が問いかけると、ミケコは「行く」と言っているように、にゃあと鳴いて摺りよってきた。
ところが、引越当日になって、ミケコは僕の前から忽然と姿を消した。
僕は近所を探し回ったけど、結局ミケコは見つからなかった。
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