猫が登場する物語

4/8
前へ
/8ページ
次へ
「へぇ、いい部屋じゃない?」 新居…もちろん賃貸アパートだが、まだ築浅の小綺麗な部屋を見回して、引越を手伝いに来てくれた妹が嬉しそうに言った。 「何でそんなに嬉しそうなんだよ。お前が住むわけじゃないだろ?」 「そうだけどさ。また泊めてもらうかもしれないじゃん」 「前と違ってわざわざ来て遊ぶところなんて近くにないだろ」 「そうでもないよ。あたし、こっちにも友達いるし」 「マジか。お前、どんだけ顔広いんだよ」 「へへー。今の世の中、距離は関係ないのだよ」 「そうかい、まあ、その調子で早く彼を見つけることだな」 「う…それは言わないで」 妹は胸を撃たれたような仕草をしてみせた。この様子だと結婚はまだ当分先か。 僕は苦笑いして、片付けを続けた。 「わざわざ手伝いに来てくれてサンキューな」 「へへっ、またね」 「気をつけて帰れよ」 「うん」 駅で妹を見送り、僕は新しい自宅への帰路についた。 その途中。道端の暗がりに小さな塊を見つけた。モゾリと動く気配。 近づいてみて、正体が判明した。 猫だった。 三毛猫。 「まさか…ミケコか?」 驚いて駆け寄ると、三毛猫は驚いたように走り去って行った。 「そんなわけ…ないよな」 僕は、自分の単純思考に苦笑いして家路についた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加