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「へぇ、いい部屋じゃない?」
新居…もちろん賃貸アパートだが、まだ築浅の小綺麗な部屋を見回して、引越を手伝いに来てくれた妹が嬉しそうに言った。
「何でそんなに嬉しそうなんだよ。お前が住むわけじゃないだろ?」
「そうだけどさ。また泊めてもらうかもしれないじゃん」
「前と違ってわざわざ来て遊ぶところなんて近くにないだろ」
「そうでもないよ。あたし、こっちにも友達いるし」
「マジか。お前、どんだけ顔広いんだよ」
「へへー。今の世の中、距離は関係ないのだよ」
「そうかい、まあ、その調子で早く彼を見つけることだな」
「う…それは言わないで」
妹は胸を撃たれたような仕草をしてみせた。この様子だと結婚はまだ当分先か。
僕は苦笑いして、片付けを続けた。
「わざわざ手伝いに来てくれてサンキューな」
「へへっ、またね」
「気をつけて帰れよ」
「うん」
駅で妹を見送り、僕は新しい自宅への帰路についた。
その途中。道端の暗がりに小さな塊を見つけた。モゾリと動く気配。
近づいてみて、正体が判明した。
猫だった。
三毛猫。
「まさか…ミケコか?」
驚いて駆け寄ると、三毛猫は驚いたように走り去って行った。
「そんなわけ…ないよな」
僕は、自分の単純思考に苦笑いして家路についた。
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