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部屋の奥に見えるのは、ダンボール箱。
引越会社のロゴマークに見覚えがある。
散らかった荷物も僕のもの、部屋は間違いないはずだ。
「勘違いだったかな…」
僕は、首を傾げながら部屋に入った。
隣の部屋の声だったかも知れない。
僕は玄関ドアを閉めて中に入った。
「おかえり」
「…」
気のせいではなかった。
声は確かに部屋の中から聞こえた。
でも、やっぱり気のせいかも知れない。
勝手に部屋に入り、悪びれる事もなく僕に話しかけてくるそいつは、三毛猫だった。
見覚えのある顔。
間違いない。
ミケコだ。
でも。
「何で猫が喋るんだ!?」
驚いた僕の声に、ミケコもビクッと驚いたような仕草をみせた。
「急に大声出さないで。びっくりするじゃない」
「あ、ご…ごめん」
「ねぇ、帰ってきたばかりで悪いんだけど、あたし、お腹すいちゃった」
「えー、まだ片付けてないからなぁ。何もないよ」
「缶詰めがあったじゃない。半生のヤツ」
「えー、持ってきたとは思うけど、どの箱に入れたか」
「そこ、その下の箱よ。匂いするもの」
「これ?」
「そうそう。早く開けて」
「う…うん」
何だかよくわからないが、言われるままに積み上がった箱を降ろして、一番下のダンボール箱を開ける。
ミケコが言う通り、猫缶が入っていた。
皿を見つけて、缶を開け、キャットフードを盛って与えると、ミケコは嬉しそうに食べた。
「あー、おいしかった。ありがとう、僕くん」
「僕くんって…」
「だって、いつも僕、僕って言ってるじゃない」
「えっと、それは…」
「じゃ、なんて呼べばいいの?」
「え?あ、じゃあ、晃司で」
「コージ?わかった。コージね」
ミケコは嬉しそうににゃあと鳴いた。
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