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あたしがカクテル世界の技術を獲得したのは16歳の冬。
うちは家が超の付くお金持ち。
古くからの財閥で、戦後GHQに解体されたけど、その後の高度経済成長で復活したの。
はたから見れば恵まれた環境。
幼稚園からエスカレーター式で大学まで、並の学力を維持すれば卒業できるけど、あたしは16になってすぐ家を出た。
小さな頃から読書が好きで、中学に入ってから今もSNS型のケータイ小説を書いてる。
お金持ちの何でも与えられる甘えは、小説家にとって害だわ。
物語に必須である本当の危機感ってものを体感できないの。
だから1万円だけ握りしめて、16で取得できる原付バイクを一発勝負の一夜漬けで取得と同時に家出した。
事前に調べると、家出少女は身分証がないとかなり生きづらいから。
まだ小さな甘えがあったのかも知れないけど、その先で苦労すればいいと思った。
ビジネスで海外を飛び廻る両親は年に数回しか会わないし、兄弟もいないから本音を言わない使用人にはうんざりしてた。
1万なんて原付免許の取得と交通費で初日に無くなったわ。
ああ、あたし、今ピンチだわ~! 多分ね。
どこへ行くかも決めずに新宿の街を歩いて、喉が渇いたから生まれて初めて公園の水飲み場の水を飲んだ。
家で飲んでいた水素水、一杯250円の味。
公園で無料の、水の味。
どっちが美味しいかというと、公園の水。
料理において、最高の調味料は“飢え”って言うからね。
半日なにも飲んでない“渇き”から、タダの水にありがたみを感じた。
日本人って幸せね。
アフリカの内陸では、飲み水確保の為、自宅から半日かけて汚染された井戸の泥水を運ぶ子ども達がいるのよ。
日も暮れた頃、出たとこ勝負の家出に危機感を感じ始めた。
眠らない街東京というけど、あたしは生身の人間。生きて行かなきゃいけない。
今夜泊まるところが無い。
お腹も空いた。どうしよう……。
ポンポン 『カチーーカチカチ』
人に後ろから肩を叩かれた瞬間、頭にカチカチという振動を感じた。何? 誰?
「初めまして、ワタシはあなたを見つけまシタ」
「は?」
うっわ! やだ、かわいい。
若い女性があたしに声を掛けてきた。
「ワタシはナナさんを見つけまシタ」
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