猫の川

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「お兄ちゃん、おかえり」 「ただいま」  摩耶の頭を撫でて「良い子にしているか。お母さんを困らせていないか」と問い掛けた。 「摩耶、良い子にしているよ。偉いでしょ」 「ああ、偉いな」 「ねぇ、ねぇ、天国ってどんなところ」 「天国かぁ。そうだな、いつも春みたいなところかな」 「摩耶も行ってみたいな」 「摩耶はダメだよ。来ちゃいけないよ」 「ええ、お兄ちゃんだけずるい。いじわるなんだから」  摩耶は頬を膨らませていた。 「ごめんな。こればっかりはお兄ちゃんの力じゃ無理なんだ。いつかは来られるからさ。その代わり、今日はいっぱい遊ぼうよ」  そう話すと摩耶はニコリとして「うん、じゃなくて、はい」と手を引っ張るようにして近所の公園に走り出した。  きっとまわりの人は不審がるだろうな。幽霊の自分が見えるのは、摩耶を含めて木之内家だけだろうから。霊感強い人がいたら別だろうけど。  死の宣告を受けたときは気持ちが沈んでしまったけど、こうやって遊びに来られるのなら幽霊もいいものかもしれない。いろんな世間の柵(しがらみ)を感じずに済むのだから。  そう考えれば、木之内家の人間でよかった。  ときどき、摩耶に会いに遊びに来てあげよう。笑顔になれるように。 「お兄ちゃん」 「んっ、どうした?」 「ありがとうね。摩耶と玲花ちゃんを助けてくれて」  侑真は笑みを返して摩耶の頭を撫でた。 「くすぐったいよ」 「摩耶、あの池のそばは危ないから行くときは注意するんだぞ」 「うん、じゃなくて、はい」  この笑顔だ。まさか死んでも摩耶の笑顔に出会えるとは思わなかったな。 (完)
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