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侑真はもう一度試みてみた。結果は同じだった。弾き飛ばされてしまう。
「摩耶」
侑真はか細い声で呼び掛けて、猫の川の流れゆく先を見遣った。終わりだ。目の前の小さな妹を救うことさえ出来ないなんて。情けない兄だ。肩を落として蹲り笑顔の摩耶を思い出す。頬に何かが流れ落ちるのを感じた。ぽつりぽつりと地面を色濃くさせる水滴が頬を伝って落ちていく。
何も出来ないのか。小さな妹の命をなぜ奪う。どうしてこんな酷い仕打ちをする。まだ六歳だぞ。ふざけるな。心の底から憤りが突き抜けていく。猫の川を睨み付けて立ち上がると、再び歩みを進めた。身体中に針が突き刺さる痛みに眉間に皺を寄せて耐える。それでも足を止めることはしなかった。足に力を込めて押し返してくる波のような力に対抗する。このまま行け。突き進め。
だが、侑真は見えない力に押し返されて結局弾き飛ばされてしまった。
なぜ、どうして。摩耶は抵抗なく猫の川に乗れたというのに。なぜ、拒む。侑真は地面に拳を叩きつけた。何度も何度も叩きつける。
額に浮かぶ汗。どうしようもなく溢れ出す涙。拳に滲む真っ赤な血。
どうしようもなく侑真は声を荒げた。声が枯れるまで喚き暴言を吐きまくった。そして、力尽きたように押し黙り蹲る。
どれくらい蹲っていたのだろうか。空に月が淡い光を湛えていた。目の前には猫の川が存在している。けど、明らかに違う点がそこには存在していた。
猫なのか。揺らめく尻尾が顔を撫でるように近づいて来る。侑真はゆっくりと視線を上へと向けていく。間違いなく猫だ。化け猫だ。象に匹敵するくらいの化け猫が目の前に。
キラリと黄金色に輝く瞳が二つ。ニヤリと口角を上げてみつめてくる。
気が付くと目の前にあったはずの猫の川が跡形もなく消し去っていた。
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