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そうか、化け猫は摩耶を救う手助けをしてくれるってことだな。といいように解釈してあたり一面咲き誇っている花々へと目を向けた。どこかに摩耶がいるはずだ。
化け猫の背中から飛び降りて「摩耶」と叫ぶ。
返事はない。それでも、何度も摩耶の名前を呼び続けた。絶対にみつけて連れ戻してやる。
「おい、ここにはその摩耶という者はいないぞ」
「なに? どいうことだ」
「わかっているのか、ここはあの世の入り口だ。おまえの居場所だ。摩耶という者の居場所ではない」
そ、それって。血の気が引くようだった。
「ほら、さっさとあの世の門を潜って行け」
そう話すと化け猫は花畑を飛び跳ねるようにして駆け去ってしまった。
ここは自分がいるべき場所、なのか。
侑真はふと自分の身体に目を向けた。実態はある。けど、あの化け猫の話が真実だとしたら。死んだのは摩耶ではなく……。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。信じないぞ、そんなこと。
ふと侑真は両手を見遣った。握ったり開いたりして手の感触を確認した。感覚はある。ただ握り拳には血が滲んではいなかった。本当に死んでしまったのか。なら、あの猫の川はなんだというのだろう。
摩耶は……。
行き着く答えはひとつしかない。
摩耶は生きている。あの猫の川は死への道ではなく生への道だったのかもしれない。
理由はわからないが、死の淵へ立たされていたのだろう。あの猫たちは生まれ行く猫たちだったに違いない。
摩耶の前に現れた玲花という女の子。あの子は摩耶を連れて行ってくれたのだろう。生きる運命だったのだろう。
ならあの時見た祖母は……。
そういうことか。あのときの光景を思い出し納得した。
ほら、あの世の入り口で手招きしている祖母がいるじゃないか。
摩耶が生きていてくれたことには救われた気分だ。けど、妙に疼く胸の内がある。この胸のモヤモヤはなんだろう。スッキリしない。
なぜ、どうしてあの世なんかに。なぜ、死ななきゃいけなかったのか。
侑真は嘆息を漏らして、あの世の門へと歩みを進める。これも人生か。運命なのか。
***
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