48人が本棚に入れています
本棚に追加
*
入ってみると、個室だけど広めの空間になっていた。シャンプーなどの洗面道具一式と、何故か衣類用洗剤も置かれている。
本当にここで服も洗えるんだ。周囲を見渡しながら入り、髪を解いてキュッと蛇口を捻ると、温かいお湯が体全体に心地良く当たった。
すっごい気持ちいい!
床には先程の脱出の際に、大量についた鮮血が、顔や体全体から、みるみると剥がれ落ちるかの様に流れていく。
ふと、曇りかかった鏡があったのでシャワーをかけてみると、そこには、全身濡れた状態の私が、虚ろな目を向けて映っていた。
人が近くにいない、閉じ籠っているせいか、こういう時はとても静かに感じる。シャワールームに響く水飛沫が、静けさを生み出しているからだろう。
ふと、子供のように無邪気な笑顔で私にくっついてくるあの人のことを何故か思い出し、そっと自身の胸に手を当てる。
好きか嫌いかなんて、はっきりと今は言えないけど、抱えられた時に感じた、あの温もり……
はっ! と我に返り、ふぅ。と溜息をつく。
こんな時に何を考えてる! 私らしくない!
内心叫びながら首を横に振り、取っ手口付近にあった乾燥ボタンを押す。どうやらこのボタンは、今いる場所が乾燥室へと変わるボタンらしい。
押した途端、暖かい風が体全体に当たり、解いた髪も舞うように乾かされる。
でも、一体どこでこんなの見つけてきたんだろう。普通の一般家庭には、乾燥付き洗濯機みたいな画期的過ぎるシャワールームなんて、まずない。こんな洗濯機みたいな場所は初めてだ。
「あっ!」
あの切れ端、大丈夫かな?
乾燥が終わり、出ようとした時、急に切れ端の存在を思い出し、慌ててパーカーのポケットを漁る。少し湿り気があり、くしゃくしゃと跡が残っていたが、なんとか開けられたので、読んでみることに。
最初のコメントを投稿しよう!