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「ところで望?」
「ん?」
「何作ってるの?」
「これ? べっこう飴だよ。何だか食べたくなってきちゃった」
彼が不思議そうな顔で背後から覗き込んできたので、満面な笑みで答える。
「それで、作れるの?」
「作れるよ。って、え?」
突然の質問に戸惑う。まさか、べっこう飴の作り方を知らなかったのか!
「もしかして、知らない?」
全員誰もが知ってるかと思っていた為か、私は驚いた顔で問いかける。
「うん。小学生の時は体が弱くて、あまり行けなかったからね」
「学校に?」
そう言うと彼は無言で頷く。
「でも、週に何回か、家庭教師が病院や家に来てくれたりもしたから、ある程度は……」
「え?」
「えっと。そこまで驚くことなのかな?」
「いや! それは驚くって!」
空いた口が塞がらない。当の本人は何食わぬ顔でこう訊ねてきたので、天と地がひっくり返ったような衝撃が走る。
「だって、私のとこだと、塾や学校に行って勉強したりする人もいれば、勉強より遊びがメインで遊んでばっかの人もいたというか……」
「なるほど。そういうの、何か楽しそうで羨ましいな」
「え?」
「だって……」
彼が淋しげに言いかけた時、金網の上に乗っていたべっこう飴が、グツグツと音を立て、きつね色に色づき始めていた。
「やばっ! 止めなきゃ!」
焦りながらアルコールランプに蓋をし、袖を手元まで伸ばしてから、金網に乗っけたアルミカップをそっと降ろす。あと少しのとこで、黒焦げになる所だった。少し冷ましかけた所でべっこう飴の完成だ。
「ふぅ。やっとできた!」
「おっ! 美味しそう!」
甘く、懐かしい様な匂いが理科室の中いっぱいに立ち籠める。数は5つに分けていたが、そのうちの2つは、ラップに大切に包んで、リュックの手前のポケットにしまう。
あっ。ついでに使えそうな物も貰っていこう。
そう思い、アルコールランプと網台以外の物をリュックにしまった。
残りは、私と麗で食べようとしたその時だった。
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