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SNOW・HAPPY ――寿夫と雪人――
雪人に首にしがみ付かれたまま寿夫は硬直した。体中の血液が顔面に集まってくる。こめかみがどくどくと脈打ち、頬は燃えるように熱い。
このままでいたら噴火する。頭頂部からマグマが噴出して来たらどうすればいいのだ。
そしてだんだん不安になってくる。
さっき聞いた言葉は本当に雪人が言ったものなのか、聞き間違いではないのか、それともアルコールの抜けていない脳みそが勝手に聴かせた幻聴か。
「いっ、いっ、今宮、い、今、なんて……?」
「一度しか言わないと言っただろう?」
しがみ付いたままの雪人は寿夫の肩から顔を上げようとしない。
強情だ。よくわかっている。こうと決めたら譲らないところのある男なのだ。そのくせ鈍感でもある。雪人は多分気付いていない。寿夫の酔いが吹っ飛んでしまう程の発言を、さっきから何度もしているのに。
ふたりにとって、とてもとても重大な言葉を発しているのに。
雪人が初めて名前を呼んだ、『寿夫』と。
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