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そんな私に生き甲斐を与えてくれたのが、愛猫のタマだ。
彼女にも、当時はハチという名の相方がいた。
げっそりと痩せこけ、堕落した生活を送る私にも、妻が可愛がっていたハチとタマの世話だけは欠かさなかった。
餌とトイレの掃除。
命を預かる身としては最低限のことではあるが、心が空っぽになってしまった私にとっては、唯一それだけが、人間らしい行動だったとも言える。
ところが、運命というものは時に残酷なもので、数日後、滅多に猫がかかることのないフィラリアの感染による呼吸困難でハチもあっけなくこの世を去った。
一晩中、ハチの傍で悲しげに鳴き続けるタマの姿が自分と重なり胸が痛くなったのは言うまでもない。
せめてタマがハチを身近に感じられるようにと、庭に植えたばかりの木の下に亡骸を埋めて手を合わせると、猫にも弔う気持ちというのがあるのであろうか。
私の横でちょこんとお座りをして、こんもりと膨らんだ土を見つめるタマの姿に思わずホロリと涙が出た。
自分の頭にぽたりと落ちた雫を不思議に思ったタマが上を向くと、そこにあるのは私の泣き顔。
それに気がついたタマは、「みゃぁみゃぁ」と私の足に纏わりつき、「抱き上げろ」と催促した。
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