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腕の中が柔らかく、小さな温もりで一杯になる。
久しぶりに感じる自分以外の体温に、色々なものが込み上げてきた私は、妻が亡くなった時ですら、その状況が受け入れられずに泣くことが無かったというのに、大きな声でみっともないほど号泣した。
その間、自分も悲しい筈のタマはしきりに私の頬を舐め、慰めてくれていた。
しかし、動物というものは強い。
哀しみに呑まれることなく、哀しみを糧へと変えて命を全うしようとする。
朝はいつも通りに起き、いつも通りに飯を食べる。
日課であった庭での日向ぼっこも変わらず続ける。
ただ、いつも二匹で肩を寄せ合っていたハチの姿がそこには無いだけ。
けれど、タマは天気のいい日は必ず庭に出て、穏やかな日差しを受けてまどろんでいた。
まるでハチが傍にいるかのように幸せそうな顔をして。
そして、そんな彼女を夏の暑い日差しから守ろうと、大きく育った木は、ハチの生まれ変わり――――いや、ハチのタマへの想いそのもののようで、タマはその木の根元が一番のお気に入りの場所となった。
そんなタマを見ていて私は自分自身が情けなくなった。
愛した妻はきっと、今のこの私の情けない姿を見たら悲しむであろう。
自分が居なくなったことで、私が落ちぶれたと知ったら、自分自身を責めてしまうだろう。
自分の人生を最後まで全うし、胸を張って妻に逢うことを自分の生き甲斐にしよう。
同じ境遇でありながらも、愛する者のことを忘れるのではなく、しっかりと胸に刻み、共に生きているタマの姿を見て、漸く私の目に光が宿った瞬間であった。
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