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顔に熱が集まるのを感じる。
けれど、少しくらいは素直になってもいいのかもしれない。
「私達も彼等のように、ずっと寄り添っていたいものですね」
自分にとっては最大限の勇気を振り絞って洩らした言葉。
何かしらの反応があってもよかろうものなのに、やけに沈黙が長く続く。
柄にもない事を言った私に、驚いているのか。
それとも、不気味に思っているのかと思い、居たたまれない気持ちになった私は、恐る恐る横目で彼女の顔を盗み見た。
そこには、満面の笑みで何度も何度も頷いている愛しい妻の姿。
あぁ――――幸せだ――――――
頬に温かいものが流れるのを感じながら目が覚めた。
懐かしくも切なく。
愛おしい思い出の場面から一転して見慣れた景色。
以前、大雨の時に雨漏りがしたせいで、一部だけ真っ黒に変色した天井。
殺風景な和室に敷かれた煎餅蒲団の中にいる自分。
あぁ。
あれは夢であったか。
小さな溜め息を漏らすと同時に、玄関口の扉が開く音が聞こえた。
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