陽だまりの中に溶け込んで……

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「せんせぇ~い! おはようございます!」  無駄に明るく、大きな声。  朝っぱらから家中に響き渡るような挨拶に苦笑するも、先ほどまで見ていた夢の余韻から抜けきることが出来ず、中々布団から起き上がることの出来ない私の頬を、ザラつく何かが撫で上げた。 「タマか」  寝転がったまま、真上を見つめていた私は、視線をゆっくりと移動させると、茶トラのふんわりとした毛の塊が目に飛び込んできた。 「ナァ~」  私の視線に気がついたタマは、目を細めて嬉しそうな声を上げた。  あれから何年経ったであろうか。  一時期、この世の何もかもが色褪せて見え、何もかもに絶望していた私は、あれほど父親に「男は一家の大黒柱。堅実な道を歩め」と言われ続けていたにも関わらず、大学を卒業してからずっと真面目に勤めてきた都市銀を辞め、酒浸りの日々を送っていた。  そんな私を救ってくれたのが、このタマだ。  自分自身が傷心であったにも関わらず、健気に私の心を癒してくれた小さな温もりにそっと手をやると、階段をかけ上がってくる慌ただしい足音に私もタマも顔を見合わせた。
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