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「先生っ! 起きてくださ……って、もうタマ吉が起こしていたのか!」
上品さの欠片もなく乱暴に開けられる襖。
ヌッと、デカイ図体を現した毬栗頭の男は、見た目から想像するに容易い粗野な態度でズカズカと部屋の中に入ってくる。
「さぁ、先生。今日こそは約束のブツを貰わねぇと、俺の首がヤバいんでね」
のそりと上半身を起こす私の隣に大股を開いたキャッチャー座りをする男は、私の顔を覗き込む。
「そうですねぇ。乾いていればいいのですが……」
まだあどけなく、純粋な目をした子供にせがまれると嫌だと言えないことと同じ理由なのであろう。
厳つい顔には似合わぬ真っ直ぐで、どこかワクワク感を湛えた澄んだ目に見つめられると、つい彼が望むような答えを言ってやりたいと思ってしまう不思議な魅力がある。
私の言葉を受けて、彼は目を大きく輝かせると、嬉しさを全面に押し出したような笑みを浮かべてサッと立ち上がった。
「ちょっくら見せてもらいますよっ!」
こちらが返事をする前に、さっさと部屋から出て行った男は、入って来た時と同様に大きな足音を立てて階段を駆け下りていく。
「まったく。急がなくても逃げやしませんのにねぇ」
「なぁ~ご」
開けっ放しになった襖を見つめ、呆れたような声で鳴くタマの頭を撫で、騒がしい男の後を追った。
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