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顔は窓の外に向けたまま、小さくにゃぁにゃぁとおねだりする様に鳴きながら。
「そうかそうか。庭に出たいんだね? 君のお気に入りの場所だからねぇ」
静かに窓を開けると、よほど嬉しかったのか、我が家に来て十五年以上。
かなりの高齢になっているはずなのに、軽やかに飛び出すタマは、小さな庭には不釣り合いな一本だけ大きく育ってしまった木の下へと駆けていく。
これはタマの日課。
心地よさそうに木漏れ陽に顔を向けるタマの背中を眺めていると、ふと、隣に黒っぽい影を見たような気がした。
「……ハ……チ?」
目を凝らしてよく見ようとした時、背後から「先生っ! こりゃぁ~すぐに買い手が見つかっちまいますよ!」と弾けるような声がかけられ、振り返る。
「その言い方ですと、貰ってくださる方が見つからない方がいいように感じられますよ?」
少々拗ねたような返事をすると、ハッとした顔をして男は慌て出す。
「い、いや、そ、そういう意味じゃねぇっすよ! 先生の作品は人気なもんで、客からもいつ先生の作品が入るのか催促がすごくて。けれど、今回のはこれまた今までの作品に輪をかけて柔らかくて、優しくて……こう……胸にジンッとくるっつぅか……絵心のねぇ俺でもなんつうか……」
「ふふふ。分かってますよ。少しだけ意地悪してみたかっただけですから」
一生懸命、私のご機嫌を直す為、しどろもどろになりながら話す彼の困ったような顔に、つい笑みが漏れる。
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