シーン四、ヒーロー

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「パパさん、こんなヤツ、相手にしても時間の無駄よ」  葵が冷たく言い放つ。  だってインチキだものという言葉を敢えて含ませるように。一本毛が迷ったように左右に首を振ってから葵と天の二人を見比べる。天はといえば、いまだ頭を金槌で殴られた衝撃が残っているのか、大きくがぶりを振ってから葵を見据える。 「……って事は、分ってんだな」  天が笑う。  インチキだと、あり得ないねと宣戦布告するかのよう。 「そうよ。分ってる。あんたがどんなトリックを使って弾丸を落としたかをね」  解答を聞いて口角を不敵に上げる天。  トリックだとと。 「まあ、トリックと言えばトリックだが、アレは紛う事なく実力を示す出来事だぜ。それがなんで怪しげなピラミッドパワーになるんだよ?」 「いいわ。ハッキリ言ってあげる」  バレてないとでも思ってるのこの馬鹿ちんはと葵。 「でもその前に……」  天が力なく転がる弾丸を持ち上げてからひょいと軽く放り上げ、落ちてきたところを右足で蹴る。弾丸は発砲されたよう射出力と同時に左回転が加えられ、ナニ平へと飛んでいく。ナニ平の手には、今し方、撃ったあとの拳銃が握られている。  もちろん銃口は下向き。  一気に加速して螺旋運動をしながらナニ平へと向かう弾丸。  弾丸はライズボールのよう銃口手前からホップ。極端に浮き上がる軌道。そうしてから下方を向いていた銃口へと見事に収まる。まるで見えない糸によって操られているかのようなファンタジックな光景であった。  どう考えても物理法則をまったく無視した出来事。  まるで魔法。
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