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ようやく光が戻ってくると、白い天井が視界に飛び込んできた。脳裏で「引き戸」の三文字が勝ち誇ったように踊っている。気付くかよ、あんなの。
悪態をつきながら体を起こそうとしたが、困ったことに上体が持ち上がらない。仕方なく腹這いになろうと手足を動かそうとしても、動かない。これはいよいよマズいことになったかもしれない。なんとか目線だけを動かしてみると、体の横にはやけに太い柱が生えていた。明らかに、トンネルの中とは違う場所だ。
思わず「何だ、コレ」と口走りそうになるが、声も出ない。一人混乱して目を白黒させていると、急にばかでかい黒い影が、僕の視界を遮った。
「何、飛び出しちゃったの、君」
上の方から、まるで拡声器でも使っているみたいな、しわがれた男の声が降ってきた。それと同時に、そのばかでかい影は僕の体を捕まえた。急に目線が高くなる。
僕の眼前に現れたのは、大きな人の顔だった。小太りで、優しい目をした、白髪頭の爺さんだった。僕の体を掴んでいたのは、爺さんの手だったのか。なんて大きさだろう。十倍どころの話じゃない。
「あーあ、頭のとこ欠けてる。何したんだろ」
欠けてるって何だろう。「怪我してる」じゃなくて?
爺さんは僕を仰向けにしたり、うつぶせにしたり、僕の手足を伸ばしたり、曲げたりした。
自分で動かそうと思ってもどうにかならなかったのに、爺さんが動かすと、僕の体はきちんと動いていた。
一体どうしちゃったんだ、僕は。爺さんのでかさも相まって、まるで人形にでもなってしまった気分だ。
爺さんは、窓際のこれまた大きな机の上に僕を置いて、どこかに行ってしまった。そのとき一瞬、自分の体が窓ガラスに反射して見えた。
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