第一部 第三章

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 人口の多い町から比較的近場であり、治安の問題もないこの辺りは、登山やピクニックには最適である。  歩道には地図や観光の要点を記した標識がこまめに立てられており、ここを歩く人間を退屈させないような配慮がなされている。  悪天候や災害などの時に、非難するための小屋が多く見受けられるのも好印象だ。  平和な山そのもののように思える。  害獣の存在なんて考えられない。  また、そこから見渡せる山の景色は、ディバのような人口密集地に住む俺にとって別世界のようだった。  まず何よりその圧倒的な量感だ。  こちらが空に近づけばそれに反比例して町は沈み、巨大な起伏が徐々に視界をうめていく。  残雪を失い荒々しく岩肌を露出させた山腹を視界にとらえたとき、思わず声をあげてしまった。  空に突き刺さるようにそそり立つ鋭いみねは、ただひたすら胸に迫った。  その一方、高みから渓谷をのぞき込んだ時、恐怖が現実感を奪い取った。  すべてを打ち明けた大展望がそこにはあった。  立ち止まり何も考えずそれら風景に見入ると、自分が無残な肉の塊ではなくて、もっと神聖な何かの一部になった気がした。  しかし、ふとその妄想が切れると肩にのしかかる激しい痛みと共に、残酷な現実感がじわじわとやってくる。  
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