第一部 第三章

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 講義で習ったとおり、雲の正体が小さな氷と水滴の集まりであると確認できた瞬間でもあった。  このような風景を見て、幻想的というよりも論理的な思考をめぐらせてしまう自分に少しだけ嫌気を感じた。  だが、疲れと苛立ちは薄れていった。  山の持つ魅力をわずかながら感じられるようになった頃、俺は開けた場所にたどり着いた。  そこは人の手により整備された広場であり、四つの木製ベンチが横一列に並んでいた。  「休憩してもいい頃か」    俺は一番端のベンチに腰を下ろした。地図を取り出し、目的地までの道のりを確認する。  蛇の山は青蛇山・白蛇山の双峰からなり標高こそ七百メートル程度だが、独特の形をしておりこの辺り一円どこからでも望むことができる。  また、古い詩歌にもたびたび登場する由緒深い山であるそうだ。  俺が現在いるのが比較的緩やかな青蛇山の方である。  「今、二合目を過ぎたばかりだから」    俺は地図上の歩いてきた道をそっと指でなぞった。  その途中、青蛇山第三休憩所という文字を見つけた。これが現在地だ。  「後三分の一くらい。一時間ってところか?」  
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