第二部 第四章

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 突拍子のないロピの言葉に、批判することも忘れた。  誇りも向上心のかけらのない恥ずべき考え方だ。冒険者行動理念の対極に位置し、ある意味でまったく斬新的な思想。  「人間は敗者と勝者の二つに分かれる。どうしようもない事実です。それと同時に勝者のほうが得できるし、みんなが勝者になりたいっていうもの事実です。そして、多分勝者の方になれる人数は限られているのかもしれない」  ロピはそこまで言い終わると、リュックサックから湿った布を取り出し、私の患部へと貼り付けた。  それが剥がれ落ちないようテープで固定する。  鼻をくすぐる植物の香りから、その布が何らかの薬用成分を含んでいることがわかった。  すぐに作用するはずはないのに、痛みと痺れがぬけていく感覚だった。  いや、そう感じたのは治療のせいばかりではないのだろう。    「コーチ。俺こそ本当の意味での負け犬です。無能でひねくれてて、自分だけがかわいくて、実はかんしゃく持ちだったりして……こんな風に卑屈になることでしか、気持ちを落ち着かすことができない。けど、どうしようもないくらいに物事が上手くいかなかったり、自分の無力さに消えてしまいたくなったとき、本当に些細ですが一歩を踏み出す方法を知っています」  ロピは、そこで一旦区切った。  私は目の端にラッドとクルーシェルの横顔をとらえた。彼らは黙ってロピの方を見つめている。  その場の誰もが続きを待っていた。  「自分の行動を振り返って、冷静に見ることだと思います。その結果をどう生かすとかではなく、感情を抑えてひたすら冷静に見ることだと。それは過去をぐじぐじと嘆くこととは別です。それは褒め称えられるわけではないし、楽しいことでもないです。むしろ、後ろ向きで暗い印象を受けるかもしれない。地味で苦痛に満ちたものなのだから。人によっては、さらに落ち込んでしまうかもしれない。周りからは根暗と思われるかもしれない。けど、それでいいと思います。それは着実な前進なんですから。そして、俺のように無能で価値のない人間にでも可能です」
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