第二部 第四章

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 そう理解すると、吐き気がするほどの嫌悪感がこみ上げてきた。    魔法草のときも同様である。    汚染熊を倒して、反省会を終えた頃。ロピと魔法草を取るか取らないかでもめたときだ。  取らないべきだと主張するロピに対し、私は取るべきだと言った。  私は魔法草を取ることにより、生態を調べることができれば、世界に対する貢献になると言った。  だが、本心はまったく違うところにある。    私が魔法草にこだわったのは保身のためだ。  私は三日後の会議で、魔法草をお土産として上層部に提出するつもりだった。  それにより上層部の心象を格段に良くできると思っていた。  ロピは、後に本心を教えてくれた。  なぜ、ロピは魔法草を取らないべきだと主張したのか? ロピにとっては魔法草など、どうでもよかったのだ。  彼は冷静な視点でパーティーを見つめ、適切な意見を述べる位置にいたかった。  彼は一瞬でよいから我々に魔法草を取ることを踏みとどまってほしかったと言った。  魔法草を取ることの意味を我々に伝えようとしていた。そのことにより、我々が知識とモラルを身につけパーティーの結束が強くなることを望んでいた。  同時に冒険者としての自分を確立したかったのだ。    それに対し、私は本心を誰にも言っていない。私は三人を裏切っている。私は逃げている。  思えば、私という人間の歴史は敗北と逃走ばかりだ。  冒険者になったのも、逃走による結果だ。  己の持てる力を誰にでも平等にささげることのできる冒険者という職業により魅力を感じたとよく話す。  しかし、事実は異なる。  私には六歳年下の弟がいた。弟には溢れんばかりの剣の才能があった。  あの頃、私は怖かった。いずれ弟が私をしのぐ騎士になると思っていた。  なまじ能力があり、ちやほやされていた私は弟に越されるのが何よりも怖かった。  同じ舞台に立つのが嫌だった。だから、私は騎士団にはいらずに冒険者になった。  実際、弟はある国の騎士団長にまで登りつめた。  落ち目にある私が、冒険者の世界に何とかしがみつけているのも弟の名によるものかもしれない。    自分の愚かさに気が狂いそうになる。消えてしまいたくなる。
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