ある秋の日

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 秋は運動の秋と言う。  その日はクラスマッチで様々な種目が行われていた。  僕は数ある競技の中から、野球の種目で参加していた。  カキンっと金属バットが音を響かせ、高い高いフライが舞い上がった。それは僕の守るレフトへのフライ。  グラブを構え落下点に入ったが、まだボールは落ちてこない。塁には走者がタッチアップを狙っている。僕は少しだけ目を離して、走者とホームベースの位置を確認した。  だが、それがいけなかった、僕はボールを見失い、キャッチするはずだったボールは僕の頭頂部を直撃した。  一時気を失った僕は、保健室に運ばれ病院に検査にも行った。  病院での検査は良好、特に異常は無いとのことだった。  しかし、それ以来全く勉強が頭に入らなくなった。教科書を見ても、文字が踊り数式は霧散する。  それは一時的な事ではなく、3年になり卒業するまでずっと続いた。  志望校のランクを二つ落とし、滑り止めも受けたが、大学受験に失敗した。  こんなはずではと、一年浪人したがそれでも何も覚えられない。  僕の頭は、バカになってしまった。  結局すべり止めにしていた大学から更に更にランクを落とし、入った大学は最低な所だった。  普段の出席率は2割、試験前でも5割しか出席しない学ぶものの居ない大学。  遊び呆け、それが使命と錯覚したような奴らばかり。そして、そんな中にあっても低い僕の成績…  学んでも学んでも、記憶に残らず気持ちが焦るばかり。真っ暗な廊下をいくら歩いても進めない進んでいるのかすらわからない様な絶望感。  僕は大学を中退し、仕事をすることにした。  何も記憶に残らない、だから仕事も単純な作業しか出来ない。  親父の町工場に入れてもらい、毎日鉄片をプレスする毎日。  後から来た高卒の若い奴らが、溶接やメッキを覚えていく中、ひたすら毎日プレス。  そんなある日、プレス機に左手を挟んでしまった。それもがっつり、指4本。  ぺたんこになった革手袋を猛烈な痛みに耐え引き剥がす。  ペリペリと剥がれ、抜けた手袋の下には、やはりぺったんこになった自分の指があった。  指の付け根からは容赦なく吹き出す血が・・・  気分が悪くなり、僕は倒れた。  遠くで僕の名前を呼ぶ声がしていたが、それも掠れるように消えていった。  目を開けると、そこには白い天井が…
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