第一章――――狩猟

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 通信を終えると、カザマは立ち上がる。そして、左眼を覆っていた手を離した。――その左眼には、青い瞳の義眼が輝いている。  いつもそうだ。仕事の前には、昔に受けた古傷が疼く。身体中の血がざわつく。長年の間に身体へ染み付いた殺戮の記憶、内なる獣が鎌首をもたげる。その暗い衝動に飲み込まれてしまわぬよう、カザマは常に冷静さを保つことを心がけていた。  深く深呼吸をして、顔を上げる。 「――さぁてと。じゃ、こちらもいきますか」  カザマが動こうとしたとき、中央廊下のほうから男たちの声が聞こえてきた。 「なんだ、何があった!?」 「下から銃声だ! この前のヤツらの報復かもしれねぇ! 武器持って下へ向かえ! 上のヤツらにも伝えろ!」  中央廊下はアパートの中心部で口の字の形になっており、一階から五階までを貫く吹き抜け構造だ。コンクリート製の欄干から下を覗きこむようにすれば、下の階の様子も窺える。  一階での銃声は、上の階まで届いただろう。今の男たちの声は一階下の二階からのようだったが……おそらく、この三階にも何人かいるはずだ。
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