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「この留守電は、天城による偽装工作だということさ。自分が秋水に殺されたと見せかけるためのな」
「はっ……おかしなことを言う。今のやり取りはどう聞いても……」
「芝居だったんだよ。仲間の青鷺に会話を聞かせることで、『天城は秋水に殺された』と印象づけようとしたんだ。留守電になったのはおそらく偶然だが、天城にとっては青鷺と会話をする必要がない分、そちらのほうがやりやすかっただろう」
「では天城と秋水の二人は、わざわざ打ち合わせて電話の前で芝居をしていたというのかね?」
女はゆっくりとかぶりを振った。
「いいや、芝居をしていたのは天城だけだ。天城は秋水と折り合いが悪かったらしいから、適当な嘘をでっち上げたとしても、こんな芝居に付き合わせるのは難しかっただろう。それに、秋水が芝居に乗っていたのなら発砲の直前に『ぶっ殺すぞ』という台詞は使わないはずだ。これではただの脅しに過ぎない。実際に殺す相手に使う言葉ではない」
「では、あの銃声は?」
「銃声の直前に天城が怯えたような反応をしているために錯覚しそうになるが、実際には、秋水は銃を構えてすらいなかった可能性が高い。あの瞬間、銃を撃ったのは天城のほうだ。怯えたフリをして、いかにも秋水が撃ったと思わせるタイミングを狙って撃った。そんなことをすれば秋水の反応でバレる可能性があるが、問題はない。余計なことを口走る前に、その一発の発砲で秋水を殺すか、少なくとも口の利けない状態にしてしまえばいい。その直後、撃たれて倒れたように装って電話を床に落とし、通話を切ったというわけだ」
「天城は秋水によって殺されたと思いきや、実際には天城が秋水を殺していたと?」
「その通り。取引に使う三千万を持ち逃げしようとしていたのは、秋水をおびき寄せ、そして殺意の言葉を自然に引き出すためでもあった」
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