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「あひゃらひいてぶくろ」
もぐもぐと手の中でソロモンが口を動かす。
「そう、皮の手袋の中にする、もこもこの手袋だ。あれを作るのはヒツジの毛なんだ」
うう。そこに食いついたか。きらりとソロモンの瞳に理解の色が浮かぶ。あ、これ、それ欲しいって顔だ。くそ、新しい手袋を手配しなきゃいけなくなったぞ。穴のあいた手袋をこっそり繕うつもりだったのに。すうっとソロモンの顔が真顔に戻る。真顔というか能面みたいな無表情だが。ばっくばくしていた俺の心臓も静かになる。本当にソロモンの笑顔怖い。
下が騒がしくなった、ひひひ~んだの、んっめえええええ~みたいな大合唱が聞こえる。
もう大丈夫だろうとソロモンの顔を離して城壁に駆け寄った。
忙しく動き回る犬がヒツジの群れをコントロールして切れていた柵の間に追いこんでいく。
馬丁が馬に轡をはめて集めている。
「……おい、りんご泥棒のクソ馬は何をしている」
「りんごはもう食ってないから、厩舎に戻ろうとしてるんだろう」
「そうか?オレには壊れているように見えるがな……」
「は?」
「結界石が割れているように見えるがな」
「なに?」
りんごの樹から引き離されそうになって、いらいらした馬は足踏みをしている。その足元にはきらきらとした石の破片が……はへん?
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