絶望の島と不憫な騎士

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「馬は乳を出さないだろう」  鮮やかに微笑みながらソロモンが言う。どんどん心臓の音が早くなっていく。 「いや、出す。出さなければ馬の子供は育たないからな」 「でも、人は馬の乳は飲まないな?」 「それは、そうだ」 「じゃあ、馬は死ね」  ぎゃあって出そうな声をかみ殺す。でた、でた、でたよ、ソロモンのとんでもが。この島でどれだけ馬が貴重だと思ってるんだ。島の外との交流が希薄なこの島で、馬の輸入なんてそう簡単にできっこない。巡回や農耕や荷引きに使えるんだ。その価値はさっきの居眠り門番の三人分はある。  ソロモンの唇が開いて言葉を紡ぎ出そうとした。猛ダッシュでソロモンの口をおさえる。 「まて、まて、まて」  間に合った。だけど、心臓がとんでもない音で鳴っている。  ここで舵切りを間違ったら、貴重な馬と沢山のヒツジが失われる。  まだ微笑んでいるソロモンの顔を間近で見ながら思考を巡らせた。目の隅のしゃれこうべが一回り大きくなってるのも忘れちゃいけない。 「馬を殺す時に、樹が燃えたら、リンゴはもう採れなくなってタルトタタンは食えなくなる。新しい苗木を育てて、実がなるまでには何年も時間がかかるんだ。その周りにいたヒツジはお前の部屋のふかふかの敷物になったり、あたたかい手袋になったりする。それに馬がいないと、出かける時には歩かないといけないんだぞ。遠い坑道まで歩くのか。往復だぞ。殺してはダメだ」
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