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「あなた──っ」
かけられた女の声に、ジューレーははっとする。
薬草師ナナ。将軍の妻は、涙を浮かべながら駆け寄ってくる。
ジューレーは下馬し、抱きしめようと両手を広げるが、その直前でナナは盛大に転んだ。
しかも、頭から思いっきり。
さすがに唖然とする皇帝とルドルフ。その視線を感じたジューレーは赤面しつつ、膝をついて妻を気遣う。
「だ、大丈夫か。君はいつもそうやって」
「大丈夫です。あなた、愛しています」
そうして、不意打ちのように抱きついてくるナナ。
ジューレーは微笑し、腕の中におさまる温もりを確認するかのようにして、力強く抱きしめてやった。
「もう大丈夫だ。安心しなさい」
「はい。安心しました」
泣きながらそう答えるナナの髪の毛を、優しく撫でてやるジューレー。
幕僚団たちはやや呆れながらも、やがて、どこか温かな様子で拍手した。やがてその拍手は大きくなり、歓声となる。
照れ笑いを浮かべるジューレー夫妻。
そういう様子を、ルドルフが醒めた目で眺めていた。
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