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第1話:波紋(1)
午後12時40分。
いつものように学生食堂は、お腹を空かせた貧乏学生で賑わっていた。
その一角、配膳カウンターから離れた奥のテーブルは、よほどのことがない限り騒がしくなることなどないのだが、今日は静かに、しかし確かにざわついた空気が漂っていた。
「は?!お前今なんて言った?!」
悶々と流れる鬱陶しい空気を掻っ切ったのは、相模原 祐輔(さがみはら ゆうすけ)。
テーブルを挟んだ斜め向かいで、ばつが悪そうに視線を泳がせている近藤 碧(こんどう あおい)とは、保育園の頃からの幼馴染だ。
「えっと‥‥‥ごめん、なさい」
「そうじゃなくて!ってか謝るの俺じゃないよな?!‥‥や、ちょっとお前さ、マジでさ、自分が何したか分かってる?!」
少し離れた席にいる集団がチラと視線を向けるほどには声を荒げながら、祐輔は光沢のなくなったカレースプーンでテーブルを叩いた。
硬い音が脳天まで響いて、碧は思わず亀のように背中を丸めて黙り込む。
祐輔ははぁ、と短い息を吐いてから、今度は椅子をひとつ挟んで碧と同じようにして座っている長身の男――菅 春樹(すが はるき)をジト、と睨んだ。
「‥‥‥すんません」
そのまま地面に潜ってしまいそう な声を最後に、ふたりは閉口してしまったから、祐輔は余計苛立ってスプーンをトレイに投げつけた。
「――で、お前はさ、どう思ってんの?これについて」
さっきと比べるとレベルふたつほど落ち着いたトーンで、祐輔は問うた。
その先には、ともすれば存在を忘れてしまいそうなやや地味な男、相沢 湊多(あいざわ そうた)が、小さくなっている碧の隣で、頬杖をついている。
「まあ‥‥しょうがないんじゃないですかね、そうなっちゃったモンは」
他人事みたいに言ってから、湊多はチキンカツを口に運んだ。
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