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道木 展理(みちき てんり)は、俺が働き身を寄せている、パチンコ店『プリンス』のある裏手に住んでいる。商店街の敷地内で理髪店を営む道木家とうちの店の経営者は、創業当時からの付き合いである。
戦後の引き上げで、泥地だったこの周囲一帯を排水工事や埋め立てで整備し、そこで商売を始めて今に至る。満州からの引き上げでこの地にたどり着いたマスターの親父。佐世保の衛生兵をしつつ激化する戦争に嫌気がさして神戸の軍事工場で働き終戦を迎えた展理の祖父。事情はそれぞれだったが戦後の居場所をこの地に求め、そして生きて来て今がある。
俺は、今まで展理の家が好きではなかった。
数年前、危うくこの街に居られなくなりかける程大事になった冤罪を、展理の姉にかけられた事をまだ俺は根に持っていた。
「ねぇ、プリンスのあの若い子。聞いた? ひなこちゃんにイタズラしようとしたって」
「えっ、違う、違う。ひなこちゃんが突然声をかけられてびっくりしただけ。ゆうやんはそんな事しないわよ」
「どうだか? ほら、ゆきちゃんとひなこちゃんって、よく遅くまでウロウロしてるでしょ。可愛いのに、あんな子外に出してたら、誘拐されるって」
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