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勤め始めて、1年。
やっと仕事にも、街にも慣れて来た頃だった。
「ねぇ、あの人。 女の子にイタズラしたらしいよ」
「良い、知らない人に声をかけられてもついて行っちゃ駄目だから」
俺の顔を見る也、近所の人間は、思い出した様に子供に言い聞かせるから、また、ちょっと人生どうでも良くなりそうだった。
気を遣ったマスターが頻繁に食事に誘ったり、声をかけたりしてくれなかったら。
ふらっと街を出てたかも知れなかった。
「ゆうやん兄ちゃん。キャッチボールしよ」
「いいぜ。10分だけだぞ」
仕事の30分休憩に、マスターの息子に遊び相手に誘われるのも、気が紛れた。
「ひなこちゃん。許してあげて」
「はあ?……なんでだよっ?」
「何も知らなかったんだ。ゆうやん兄ちゃん良い人って、俺言っとくから」
「言わなくて良い!」
マスター達だけ分かってくれればそれで良い。
そう思った。
勿論、マスターの息子の貴志も一緒。
そいつらだけ、分かってくれれば、俺はここでまだ頑張れる気がした。
道木 平成子(みちき ひなこ)は嫌いだ。
貴志が、いっつも心配して、心を痛めて、損をしている。
高校卒業すると、ふらっと店に顔を出しては、開始5分で「大当たり」を出す。
周りに居る客が、『小学生はマズいだろ』 『今日は何のイベントなの?』だの言い出すから、いちいち説明するのがウザい。
『ちゃんと18歳以上で高校卒業している』
『イベントじゃなくて、あいつが単にラッキー(幸運)なだけ』
あぁ、メンドイ。
たまに、ラッキーで『大当たり』してるあいつに、サクラだとか、不正だとか言いがかりを付けてくる奴らまで出てくる始末だ。
だから、来店早々、俺は必ず、貴志を呼びつけ、宣言する。
「あの目障りな小娘を30分以内に退去させなかったら、『犯すぞ、帰れ』って言っちゃ駄目か?」
「駄目。分かった。ゆうやんごめん」
大体、あの女は、別に博打が好きでここに来ている訳じゃない。
18歳を過ぎて、店に出入り出来る様になったのを良い事に、貴志に用事がある時だけ店に打ちに来ているだけなんだ。
それが、俺は余計に腹立たしかった。
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