第二話 猫を愛す君

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「どうした?」 「てんりが家出した」 高校卒業後、製菓学校を卒業し、長崎の大手遊行施設に併設されたホテルを2か月で辞め実家に帰って半年、再就職が思う様に行かず親と衝突が絶えなかった展理は、突然姿を消した。 道木の両親が血相を変えて飛び出して行くのを見た貴志は、いつものお節介全開で、相談に乗り帰って来て浮かない顔をするから聞いてみれば、そう話した。 結局、一年後、展理は街に帰って来た。 東京に憧れて上京し、仕事を探したがうまく行かず、行き詰った末帰って来た。 そこで、親が金持ちの一人息子と付き合ったらしいが、親に結婚を反対されて、妊娠していたのに相手にそれを告げる事無く帰ったと言う。 「どうすんだよ。コドモ?」 「両親は反対してるけど、てんりは産んで育てるって」 「はあ? 相手には言ってねえんだろ?」 俺がそう言うと、煙草に火を点けながら、貴志は遠い目をして言った。 「今、精神病院に入院してるから、絶対言わない。一生言わないんだって……」 「何だよ、それ」 「てんりの恋人。定職にもついてて、てんりの事大事にしてたんだけど。全然、てんりがこらえ性なくてアルバイトも続かない状況に行き詰って 、鬱状態になったのを支えているうちに、鬱になったんだって。 だから、むこうの親御さんはてんりを目の敵にして会わせてくれなかったし。会うつもりもないって」 「産むか、その状況で」 俺は、聞いてて嫌な気持ちになった。 「毎年毎年、猫や鳥の子がわんさか行き倒れているのを、片っ端から育てようとするてんりだからな。まぁ、人の子は違うって話しだけど。 良いんじゃね?」 「何だよ、その理屈」 「だって、てんりは一度だって、そうやって拾った命、途中で投げ出した事ないから、良いオトナにはなれなくても、良い母親にはなれるって、思う訳。 まあ、親父さん達には言えねえけどな。さすがに……」 良いオトナか。 そりゃ、俺もなれてないけどよ。 でも、それってあんまりにも不憫じゃねえか? 優しくて、良い奴なのに。 不幸じゃねえか? そう思うと堪らなかった。
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