7人が本棚に入れています
本棚に追加
「てんりちゃん、覚えとう?」
「何をですか?」
「てんりちゃんが、放生祭(ほうじょうや)でとって来たニワトリ肩に乗せて歩きよったの?」
放生祭や箱崎宮で毎年秋に行われる生き物を供養する、若者達や子供に特に人気の高い祭りだ。
生き物の絡む出店のバリエーションが半端ない。
金魚すくいや鰻すくいの他、亀にヒヨコと、持ち帰って困るお土産満載の変わった特徴がある。
「……変な話しやめて下さいよ」
「お店始めたばっかの時、テレビの取材受けよう時、偶然通りかかったやん? 『何、あの子。肩ににわとり、乗せとう』ってリポーターの人が食らいついたと思ったら、鉄板に向かって突進して、たこ焼き食べたけん、大爆笑やったの忘れられん」
「もうっ! 昔の話はやめて下さいよ」
「あのね、やけんねっ。 私、思わずミンチ焼きを作ったとって! たこ焼きだけじゃつまらんって思って、何かしようと思いよったっちゃけど、これだ! って思ったとって。 鶏ミンチの産みの親よ、てんりちゃん」
「はぁああああああああ!」
思わず大声で叫んでしまった。
「ゆうやん! どうしたと!」
「何、その話! 俺、むっちゃミンチ焼き好きっちゃけど! そんな理由!」
「うちはたこ焼き屋やけん。そこはたこ焼きも好きやけどって言わんね」
「いや、うっせえし。俺は、みんち焼きが好きやけん」
俺と姉御の言い合いに、てんりは大笑いして、店を覗いて来た。
てんりが、俺の事を見た。
てんりは俺を憶えているだろうか?
俺はずっと、子猫を抱えて泣いているのを見た日から、展理の事が好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!