第二話 猫を愛す君

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「てんりちゃん、覚えとう?」 「何をですか?」 「てんりちゃんが、放生祭(ほうじょうや)でとって来たニワトリ肩に乗せて歩きよったの?」 放生祭や箱崎宮で毎年秋に行われる生き物を供養する、若者達や子供に特に人気の高い祭りだ。 生き物の絡む出店のバリエーションが半端ない。 金魚すくいや鰻すくいの他、亀にヒヨコと、持ち帰って困るお土産満載の変わった特徴がある。 「……変な話しやめて下さいよ」 「お店始めたばっかの時、テレビの取材受けよう時、偶然通りかかったやん? 『何、あの子。肩ににわとり、乗せとう』ってリポーターの人が食らいついたと思ったら、鉄板に向かって突進して、たこ焼き食べたけん、大爆笑やったの忘れられん」 「もうっ! 昔の話はやめて下さいよ」 「あのね、やけんねっ。 私、思わずミンチ焼きを作ったとって! たこ焼きだけじゃつまらんって思って、何かしようと思いよったっちゃけど、これだ! って思ったとって。 鶏ミンチの産みの親よ、てんりちゃん」 「はぁああああああああ!」 思わず大声で叫んでしまった。 「ゆうやん! どうしたと!」 「何、その話! 俺、むっちゃミンチ焼き好きっちゃけど! そんな理由!」 「うちはたこ焼き屋やけん。そこはたこ焼きも好きやけどって言わんね」 「いや、うっせえし。俺は、みんち焼きが好きやけん」 俺と姉御の言い合いに、てんりは大笑いして、店を覗いて来た。 てんりが、俺の事を見た。 てんりは俺を憶えているだろうか? 俺はずっと、子猫を抱えて泣いているのを見た日から、展理の事が好きだった。
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