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「やあ、かわいいな」
正孝はマフラーを巻き直すと、かろうじて葉が残っているツツジの植え込みの前でしゃがみ込んだ。
にぁ、と鳴く低い声は威嚇ではないということを知っている。
ツツジの根元で丸くなる茶虎の猫は痩せ細っているし、毛もバサバサでお世辞にも綺麗だとは言えない。
だが、どこか世間を見下したような黄色の瞳に親近感が湧き、とても魅力的に見えた。
正孝は首輪のない喉に手を伸ばした。
茶虎はしぶしぶといった様子で顎を前に突き出し、正孝に喉を触らせる。
ちっとも気持ち良くないとでも言いたげに耳を倒し、人間がやるように薄目を開けてこちらを見る茶虎に正孝は吹き出した。
「お前、いい奴だな」
正孝は落ちた枯れ葉の上に腰を下ろし、あぐらをかいて茶虎を眺める。
真っ直ぐ向き合う形になった茶虎は、チラリと正孝を見上げながら同じように前脚を組んだ。
「なぁ。猫ってやつは、こんな冷たい土の上で寝そべるのも平気なのかい。俺は腹を壊しそうだ」
茶虎はどうでも良さそうに欠伸をすると目を閉じる。
寒さに耐えているようにも見えるその姿に、正孝の胸はいっぱいになった。
「――なぁ。寝るほど暇なら、俺の話を聞いてくれないか」
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