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次にその豆腐を口にしたのは、高校を卒業し社会人になった初めての冬。
正月の帰省を終え、寒いアパートでぼんやりと過ごす正孝の元に一丁の新豆豆腐が送られてきた。送り主の欄にはあの豆腐屋の店名が書かれている。
母が豆腐屋に送るよう頼んだのかと思ったが、それにしては不自然な点が多く、さてどうしたものかと思ったが確認の電話をするのが億劫で、たったの一丁だし、そう高いものではないしと言い訳をし、さっさと湯豆腐にして食べてしまった。
老女の厚意であろう新豆豆腐は変わらず美味で、口へ運ぶ度に故郷の冬を感じた。
それからは毎年一月の帰省終わりに新豆豆腐が送られてくるようになった。それも、決まって一丁だけ。そして決まって湯豆腐にして頂くのだ。
そうやって幾度あの豆腐屋の湯豆腐を食べたのだろうか。
正月に帰省した時、急に思い立って豆腐屋を訪ねてみることにした。今年の正月の話だ。
これまで何の挨拶もしなかったことは非常識であると重々承知しているが、今更という思いもあり、どうしても豆腐屋に御礼の電話を掛ける勇気が出ないまま何年も過ごしてしまったのだ。
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