正孝と茶虎猫

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  木枯らしがビルの隙間を吹き抜け、落ち葉が乾いた音を立てながら正孝に当たった。 茶虎は目を瞑りながらも、時折相槌を打つように髭や尻尾をぴくぴくと動かす。 細い背中があまりにも寒そうで、背中にマフラーを掛けてやろうと思い首から外してはみたが、余計なお世話だろうと思い直し、そのまま地面に置いた。何となく、茶虎と同じように寒さを感じたかったのだ。 「今日、その新豆豆腐が届く日なんだ。…今年も届くならの話だけど」 茶虎はぴくりと耳を立て、暗い道の向こうをジッと見た。かと思えば、立ち上がってさっさとそちらへ歩き出してしまう。 もしかしたらどこかの飼い猫で、飼い主に呼ばれたのかもしれない。帰ったらふてぶてしさを隠し、上手に甘えるのだろうか。 正孝は白い息を吐くと冷たくなったマフラーをぐるぐるに巻き、ゆっくり立ち上がった。 あの豆腐屋が何者だと思うか、などと猫に聞こうとした自分が可笑しく、声に出して笑ってしまえば、不思議なことに豆腐屋のことがそう重要に思えなくなっていた。 そうだ、今まで通り何も知らないふりをして、可愛がられていればいいのだ。 正孝は湯豆腐に合う酒を買うためにコンビニへ足を向けた。  
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