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きた!――と思って体を起こす。
慌てて机の引き出しから小銭入れをひっ掴んで、バタバタと一階へ降りた。
玄関のドアを開け放ち、タタと外へ飛び出すと、通りの向こうから白いワンボックスカーがゆっくりと近づいてくるのが見えた。
『みんなのおなかに幸せ届ける、白い車のくろとりベーカリー♪無添加・手作り・ふわふわのパンがやってきたぁー♪』
ところどころ音程を外したオリジナルソングを響かせながら、白い車は俺の家の前にぴたりと停まった。
スピーカーから漂う音を少しだけ窄めて、中から男がヒラヒラと手を振った。
「ごめんね、遅くなっちゃった。待っててくれたの?」
男は車から飛び降りて、ボサボサの髪を掻きながら、車の後ろ扉を開けた。
トランク部分に積まれた手作りのカラーボックスには、手書きのメニューカードと、ポリ袋でひとつひとつ包まれたパンがほんの少しだけ並んでいる。
「今日は、団地の公園でいろんな人が買ってくれてね。残りがこれしかないんだ‥ごめんね」
でも、と続けながら、彼は助手席からポリ袋に入ったパンを取り出して、おもむろに俺の掌に乗せた。
「とろとろクリームパンだけは、ちゃんと確保しといたから!」
アルミカップに入った、いびつな形のクリームパンと同じように、ふにゃりとした笑顔を浮かべて、彼は言った。
ありがとう、と礼を言ってから、俺用に確保してもらっておいたクリームパンと、夜食用にと選んだいちごのジャムパンを紙袋に詰めてもらい、代金を支払う。
そうして、「また明日」とお決まりの挨拶を交わしてからリビングのソファに腰かけ、牛乳多めのカフェオレと一緒にパンをいただく。
これが俺の日課だ。
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