冒頭~

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               ◆◆◆ 「リーダーが死んでいる?」  ブラックコーヒーを紙コップに注いだ。デスクに座っていたエンジニアの目黒(めぐろ)は配属されたばかりの新人、児玉(こだま)に視線をやった。短く切りそろえられた黒髪をぐしゃぐしゃかきまわす児玉は、半ばパニック状態のようだった。焦点が、あちらへこちらへと目に見えない虫を追っていた。 「今朝、実験室の監視カメラを見たらプロジェクトリーダーが死んでいたんです。床に倒れたままピクリとも動かないんです」 「事件じゃないか」 「そうです。早く警察に連絡しないと……、なんでコーヒーなんか飲んでいられるんですか」 「まぁ、落ち着けよ。お前もいるか?」 「それどころじゃないです」  そうか。コーヒーは嫌いか。  あくびを一つ。目黒は気だるそうに席を立つと、身振り手振りでせかす目黒の後を追った。 「今日は仮病使えばよかったな」 「なんか言いましたか」  なんでもないよ。二人は事務室を後にする。  目黒がにらめっこしていたコンピューターのデスクトップ画面には、一体のアンドロイドが写っていた。 「おい。ちょっと待て。実験室は閉まってるんだろ。鍵は……、」 「ここに落ちてますよ」 「ああ、そうか。悪い。俺はどうも忘れっぽくてな。昨日もなくしたんだよ」                ◆◆◆  2重ロックの扉が開き、実験室へ、児玉、目黒の順で足を踏み入れた。50平米ほどのコンクリート造りの室内。壁は防音工事が施されており、天井の吹き抜け以外から、外部から室内の様子は一切わからないようになっている。  さらに5畳ほどのスペースがガラス板で仕切られており、その中にはベッド、机、キッチンなどの一人暮らしには差し支えなさそうな生活空間が形成されていた。  牢獄のような宿直室、と目黒は心の中で命名していた。  ガラス板内には白色の絨毯が敷かれており、プロジェクトリーダーはその中心でうつぶせになっていた。  現場内において、プロジェクトリーダーの他にいたのは、プロジェクトの肝であるアンドロイドと、一匹の猫。猫はベッドで丸くなって眠っており、アンドロイドは猫の背中を撫でながらその横で座っている。  あまりにもシュールな光景にめまいを覚えた。
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