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episode202 誰も見てはならぬ
鉄は熱いうちに打て。
一番危険な相手に確かめるなら
早い方がいいと思った。
「和樹坊ちゃま!本日はお戻りにならないかと――」
屋敷に戻ると
慌てて飛び出してきた中川に
「予定変更。いろいろ大変なんだ。本当にね」
形ばかりのビジネスバッグを手渡し
僕はもっともらしく嘯(うそぶ)いてみせる。
「ええ、ええ。坊ちゃまは本当に良くやってらっしゃいます」
それでも
不遇の末っ子を溺愛する老執事は
「お疲れでしょう。すぐにお茶をお淹れ致しますね」
目を細め労ってくれる。
だけど――。
「いいや、お茶はいい。大変だって言ったろ?」
呑気にお茶なんか
飲んでる場合じゃないんだ。
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