稚児の名前は太郎

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「何故ですか? 旦那様にご迷惑をかけないようお世話しますから! ご飯も、私のものをはんぶんこであげるから、いいでしょう?」 「そうやっていくうちに、お前はそいつを離したくなくなる。第一、母猫が迎えに来る保証もない」 太郎の懇願を冷たくあしらい、主人は「そいつを離して、残った仕事を終わらせろよ」と、店の奥へと入ってしまった。 慌てて太郎が「旦那様!」と呼びかけても、主人はもう表へは出てこない。 「なにさ、旦那様のわからんちん! 」 主人の非情で餅のようにぷっくりと頬を膨らませる太郎に、黒猫は困ったように鼻をすぴすぴと鳴らした。 「大丈夫だよ。きみは私が守ってあげるから。 そうだ。あんなわからんちんの旦那様のご用事なんてほうっておいて、今からきみのお家を探しに行こう!」 そう言うや否や、太郎は猫を一旦下ろすと自分の前掛けを外して箒と共に片付けてしまった。 「さあ、まいりましょう!」
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