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男は優しく太郎に話しかける。
しかしその声よりも、風で揺さぶれる笹の葉の擦れ合う音と黒猫の鳴く声が、太郎の頭にこだました。
細く高い鳴き声と、さざ波の様な風音。
それは、太郎が気付かぬうちに意識を遠くへと追いやっていく。
ーー気付けば、太郎は自分の姿を斜め上から見下ろしていた。
「あれっ? あそこに居るのは私ですよね??」
ふわふわとした感覚の中、太郎は目の前の景色をぼんやりと眺めた。
太郎と対峙する男は、ほとほと困り果てたという表情。男の足元に居たはずの黒猫は、姿を消していた。
不意に
この男との過ごした日々が、太郎の脳内に浮かんできた。
小さな小箱。
そこがこの男、篠原との出会いだ。
大きな手のひらが自分を救った。
篠原は1人で暮らしていた。そこに拾われたのだ。
はじめは触られるのが大嫌いだった。
だけど悪い人間ではないと思い始め、体を撫でるのを許し始めた。
篠原との生活に慣れて、篠原を少しづつ好きになってきた。
しかしある日突然、篠原が倒れた。
怖かった。不安だった。
たくさん鳴いて、助けを呼んだ。
助けて、助けてと。
外に飛び出て、誰か来て、と走る車に叫んだ時…………
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