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「きゃっ!」
視界いっぱいに広がった大きな車体に、太郎は思わず両手で目を覆った。
……これは黒猫の記憶。
それが分かったと同時に、黒猫が失せ物屋に来た理由が分かった。
旦那様に鳴き声を上げたのは、依頼をしたのだ。
失くした命を戻してくださいーーと。
「……それは……」
できません、と言う前に、篠原が独り言を言った。
「……てっきりタマが帰って来たと思った」
タマ。
そう。それが黒猫の名前だ。
いつもシノハラはタマ、と呼んでくれてたんだ。
太郎に入り込んだ黒猫の感情が伝わる。
タマの名が出て喜んでいる。
『……タマ、トモダチ?』
「ん? あ、ああ。黒い小さな猫なんだけどね。
そうだ、君、来る途中でどこかで見なかった?」
『シノハラ ノ コト、シンパイ、シテタ』
「え? ……タマが?」
篠原の質問に、男の子は答えない。
そのかわりに男の子は自分の頬を小さな手の甲でこすった。それはタマがよく見せた仕草だ。
「……タマ?」
『シノハラ、キュウニ ウゴカナイカラ、コワクテ タスケテッテ、イッタ』
「君は……タマなのか?」
『ダケド クルマ、トマラナカッタ。モウ シノハラ ト イレナイ。オネガイシタケド、ダメダッテ』
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