六星竜一(金田一少年の事件簿)

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あらすじを交えながら書いていくが彼はこの事件中、殆ど「小田切進(おだぎりすすむ)」と名乗っている。そもそも事件の始まりが高校教師の小田切進と生徒の時田若葉がラブホから出てくる様子が撮影されてしまい、それが学校に貼り出されたから騒ぎになった事だ。 それが当たり前ながら問題となり、最終的に若葉は出身地である六角村(ろっかくむら)に戻り、婚約者と結婚する事になってしまう。そこに金田一少年と幼なじみの美雪、そして小田切進こと六星竜一が赴く。この頃には勿論、小田切進=六星竜一とは知られていない。実は本物の小田切進は六星が時田若葉に近づく為に殺されており、六星は若葉の学校に赴任予定だった小田切進に成り代わっていたのだ。つまり六星は気弱な高校教師を演じながら潜伏していたわけである。 冒頭で本物の小田切の白骨死体が出てくるが、無論最初にそれを予想し、六星が偽教師だと推理するのは難しいだろう(ちなみに本物の小田切進はこの白骨死体の姿1コマのみしか登場しない。かなり可哀想な被害者だ)。 復讐の為には無関係な人間も殺し、しかも手早く女をおとす・・・・・金田一の推理の中で数コマで暴かれる事だが、これだけでも六星の執念と異常性が分かり、好きなシーンだ。 村に着いた彼は「七人目のミイラ」と名乗り、六星一家惨殺に携わった館の主達を次々と殺害。死体の足や頭等を切り取って持ち去るという異常殺人鬼の存在をクローズドサークルでもない上に警察が警備してる村で演出した。しかも殺害方法は単純にナイフとかで殺しているだけ。彼が肉体派犯人といわれる所以だろうか。 なお、死体の一部を切り取っているのは村の異人館に安置してあるミイラの欠損している部位を持ち去るという演出。なのだが、わざと館のミイラの欠損部位と対応していない部位を持ち去る事でトリックを仕掛ける等頭もキレる事を見せつけた。 ちなみに彼は後の高遠遙一のように殺人に芸術性を感じているらしく、金田一に犯人とバレなければ最後まで芸術的に殺人をこなせたと語っている。 だが、高遠が主にトリックに芸術性や怪奇性を追求している傾向があるのに対し、六星は現場の装飾や死体の設置の仕方等に拘っている節があるようだ。 この狂気性がまた、悪役好きにはたまらない。 金田一少年は今でこそ犯人が死ぬ事件は少ないが、初期の作品では大体死んでいた。だが、自殺するケースが大半だった。 この六星の場合は先述の通り犯人バレしたのに警察を相手に格闘で無双して最後のターゲットを殺した後、大麻畑に火をつける際の戦闘で更にもう1人を射殺(返り討ち)。金田一も死にかけるが、六星の実父風祭が六星を射殺する事で六星の出番を終わらせた。第三者に殺されるというケースは少なく、そうでもしないと止められなかった六星はかなりの強敵だったと言えるだろう。 というかこの一連の流れはまさにクライマックス的な演出と六星が強大なボスキャラの要素を備えた存在である事から非常に物語に引き込まれる。 そもそも義務教育すら受けてなさそうなのに高校教師になりきっていた点で頭も良い。前述した肉体派である事も合わせると最強候補に上がるのも納得だ。 彼はターゲット自体が本物の小田切進も含めると八人と多く(他の犯人は大抵三人〜五人くらい)、乗り越えなければならない壁が多い事から非常に難易度が高い計画を実行したと言える。だが結果的にはターゲット全員死亡させる事に成功しているので、言ってしまえば金田一の敗北と言ってもいい。 残念なのはこの後、これほどの強犯人はなかなか現れなかった事であろうか。 さて、六星は先述通り作中ではどちらかというと異常殺人鬼の扱いだ。しかし計画の為に近付いた若葉の事は本気で愛していた。 そもそもこの若葉自体共犯で、彼女も六星を(本当は小田切進でなく六星竜一というのは薄々勘づいていただろう)本気で愛していたため、トリックの為に一人殺害している(形的には六星の殺人教唆という事になる)。どちらかというと彼女がまったく責められない事の方がおかしく感じるような…。まぁ死後に語られたから仕方ないのかもしれないが。 若葉死亡後に彼が部屋で一人泣く場面は演技でもない本当の涙であり、犯人発覚後ではあるがお互い愛していた事が分かる。愛していたうえに自分と一緒になりたいがために殺人までおかした恋人を、トリックのため殺すしかなかった六星は私的な意見ではあるがこの時には自殺する事を考えていたのではないかと思う。 六星は若葉も含めて遺体をどこかしら欠損させている。後に明かされるが若葉の場合は首を切断しているのだが、若葉にだけはちゃんとした墓をつくって弔っていたという(怨みもあるからか、他の遺体はゴミのように扱ってあった)。彼も本当はその墓に入りたかったのだろうが、念入りにガソリンまで用意して大麻畑を燃やしつくそうと考えていた事から、自身は大麻畑と共に燃えるつもりだったのではなかろうか。 前述したクライマックス的な流れに、六星竜一と若葉の悲恋と殺人マシンである彼が涙を流す展開は読者に何とも言い難い「熱さ」を感じさせる事に成功している。 最終的にわりとあっさり死んでしまう彼だが、流れがあまりに完璧なため、彼がストーリーから退場する際には不思議な虚無感を感じられるだろう。こういった要素も名悪役に必要な要素ではないかと思う。image=restricted_page_image.png
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