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登場作品:機動戦士Vガンダム
分類:裏切り型
職業:お嬢様→ザンスカール帝国兵
立ち位置:まさかのラスボス
悪人度:A
カッコよさ:C
強敵度:B
存在感:S
作品貢献度:A
演:渡辺久美子
皆さんは裏切りキャラというと誰が思いつくだろうか?
そして、悪女キャラというと誰が思いつくだろう?
その答えは千差万別であり、そのカテゴリーの「定義」も人それぞれだと思う。
だが、私はその2つのカテゴリーを兼ね備えたキャラクターとして、今回のカテジナ・ルースを自信をもって紹介したい。
カテジナは第1話から登場しているキャラクターである。Vガンダムの第1話は元々第4話にする話をスポンサーを納得させる為に無理矢理1話目に構成したものであったが、本来の第1話である第2話から登場しているわけだ。
つまり途中から急に出てきたキャラクターというわけではなく、当初からある程度重要なキャラクターとして出てきたと言えるだろう。
そんなカテジナは主人公ウッソ・エヴィン(ちなみに中の人は銀魂の新八役の阪口大助氏なのだが、この役でデビューしたので本作は演技力の成長を楽しめる)の憧れの年上女性であると同時に「ウッソが守りたい相手」という存在であった。カテジナからすると一方的なメールの送り付けや隠し撮り等されていて疎ましく思われていたが、ウッソの才能自体は最初から認めていた節がある。
ただ、当初から13歳のウッソを味方として引き込むリガ・ミリティアのカミオンの老人達には良い印象を持っておらず、彼等のゲリラ活動が根底にあった事で故郷のウーイッグが壊滅的な被害を受けたという事情からも「完全な味方」とは言えない存在であった。
そして序盤にてウッソのライバルポジションであるクロノクル・アシャーに捕らわれた事をきっかけに敵側であるザンスカール帝国側に向かう事になっていく。彼女の家庭環境は壊れており、家庭を顧みない父とそれにかこつけて愛人を作っていた母に幻滅していたのだが、クロノクルに優しく扱われた事と理想主義的な所からかザンスカールのマリア主義に賛同するようになってしまったのだ。
スパイするつもりだという体でザンスカール側につき、仮にも命を助けたウッソを裏切る形でカテジナはやがてクロノクルの秘書官になっていく。だが、中盤には自らも一兵士としてウッソの前に立ち塞がる敵として戦場に出てくるようになるのだ。
やはり惚れた弱みというか、ウッソにとっては苦手な相手である。わりと容赦なく敵を撃墜する事もあるウッソだが基本的には快楽殺人者とは真逆な性分のため、一部の敵キャラには非常になりきれない事もある。しかし私的ではあるがウッソはカテジナをなるべく傷つけたくないのか、無意識に手加減して苦戦している場合が多いように思う。
「Vガンダム」では一番の強敵は間違いなくファラ・グリフォン。女性としてウッソに最も求め迫ったのはルペ・シノ。ライバルポジションはクロノクルであると思う。だが、カテジナはモンストでいう「ウッソキラーL」を持っているというか…ポケモンでいえばウッソ→Lv50のリザードン、カテジナ→Lv35のカメックスみたいな戦闘バランスだったと思う。実力では他のキャラクターに比べて秀でているとは言い難いがラスボスとして君臨している珍しいキャラクターと言えるだろう。
そう、カテジナはラスボスなのだ。ライバルとして最終回まで出続けていたクロノクルではなく、ウッソに最後に立ちはだかったのは当初ヒロインの1人であったこのカテジナなのである。ちなみにNHKで放送されたガンダム総選挙特番においても「Vガンダム」が紹介された際にはクロノクルについては全く言及されずにカテジナが紹介されている。
はっきり言って主人公側を裏切る形で敵軍に味方し、挙句に敵として戦場に出てくるようになる…というだけならこのエッセイで紹介する程でもないちょっと珍しい悪役に過ぎないと思う。
だがカテジナの場合、ラスボスである。しかもラスボスになるまでの過程が他作では見難い展開の連続なのだ。
当初寝返ったカテジナはあくまでクロノクルの部下の1人というポジションにすぎなかった。しかし才能があったのかメキメキと力をつけ、終盤には女王の近衛兵に命令を下すほどに階級が上がっている。
実質カテジナ専用機であるゴトラタンを与えられている事からザンスカール側には重要な戦力として数えられている事は間違いなく、終盤におけるエンジェル・ハイロゥ攻防戦ではウッソの仲間を次々と撃墜しているため、相手が超ベテランパイロットや優れたニュータイプでなければ恐らく勝てるだろう実力は備えている事が分かる。
(ちなみにエンジェル・ハイロゥというのはザンスカール帝国が終盤投入してきた兵器。これはコントロールルームで特殊な干渉波を持った人間が祈りを捧げると、数万人のサイキッカーがそれを増幅させて周辺地域の生物の精神に影響を及ぼすという物。これを受けた生物は闘争本能をなくし精神が幼児退行を起こし、眠ってしまう。装置が起動し続ける限り二度と目覚めることはないため餓死・衰弱死、腐乱する事になる。ようは生物を強制的に安楽死させる機械)
ただ、カテジナの何が強いかというと特に終盤においてはその「気迫」。というより、失礼な言い方ではあるがキチガイゆえの凄味…話し合いにならない感じというか、視野が狭いうえに思い込みや自己陶酔で突っかかってくる性格の御方を相手にする感じというか。一般常識が通用しない相手というか…
そういう御方の兵器に乗った版が暴れてる状態なのだ。それは作中のウッソの台詞「荒んだ心に武器は危険」を誰よりも体現していると言える。ゆえに比較的常識的、良心的な精神を持っていたシュラク隊の面々やオデロはカテジナに為す術もない形で撃墜されていった(オデロはエンジェル・ハイロゥのせいとも言えるが、オデロの場合は動きを止めたカテジナにトドメを刺すのを迷っている。カテジナは動けるようになった途端攻撃したのでその差はあるかと思う)。
終盤、愛するクロノクルと自分を愛していたウッソを戦わせ、悦に浸る様はおそらくどの視聴者をも「カテジナがラスボス」「カテジナが作品の最後を締める」という情報を納得させるパワーがあるだろう。
富野由悠季監督がスタッフに「最後はカテジナで締める」と言ったところ、誰からも反対意見は出なかったようだ。
作中には様々なトンデモ兵器が登場する。先述のエンジェル・ハイロゥは最終決戦兵器だが、やはりどちらかというと有名なのは「バイク型戦艦」と「タイヤ型のフライトユニット」だろう。バイク型戦艦はそのタイヤで街や民間人をすり潰していくという非人道的兵器である。
当時、富野由悠季監督は精神的に相当まいっていたらしく、ガンダムシリーズを潰すつもりすらあったという。ゆえに他のガンダム作品とは方向性が違うようなトンデモ兵器(やけっぱちとも言える)が多いのだが、そんな監督が視聴者に放った兵器がカテジナだったと思える。
カテジナの軌跡は起承転結で辿れるのだが、まだ真人間と言えた起の部分と、悲劇的な最後を迎える結よりもやはり変換のきっかけとなる承と徐々に危険な性格へと変貌していく転が注目すべき部分と思う。
まだ階級が低い頃のカテジナは作中でのキチガイレベルはまだ見れる程度だったと思う。基本的に富野由悠季監督は終盤畳み掛ける展開が多いが、カテジナもそれに呼応するかのように狂っていった気がする。その狂いっぷりは一部から「強化人間にされたのでは?」と考察されているが、作中では語られる事はない。何よりクロノクルの恋人として認知されているうえ、クロノクルがどちらかというと作品好青年に描かれている事からカテジナに強化手術を受けさせている可能性は高いとは言い切れないので、私的な意見だが終盤の狂いっぷりはカテジナの素のままではないかと考えている。
カテジナが戦場で戦うほど、ウッソに対して憎しみを抱いていく。戦場に出て初期の頃は真人間だった頃の延長線上のような台詞が多かったのだが、後半になるにつれ過激で何があったの!?と言いたくなるような台詞が多くなっていくのだ。
こういった台詞の危なっかしさとカテジナが元々小さな街のお嬢様だったというギャップが視聴者の心を良くも悪くも掴んだのではないだろうか?
そしてそれは戦いぶりにも表れていき、人によっては爽快とも言えるほどの暴れぷりを見せていくのだが、個人的には「Vガンダム」は戦闘の見せ方や面白さについてはピカイチだと思う。その中でもカテジナのなりふり構わないような戦闘はウッソが操縦技術や発想力を生かした戦闘をするのとはまるで真逆なようで面白い。
やがてどんな卑怯な手を使ってでもウッソを追い詰めていくカテジナ。なんと女だけの部隊に水着を着せてV2ガンダムに白兵戦を仕掛けさせるなどの作戦まで使うようになるのだが、最終的にはクロノクルをウッソと戦わせ、結果的に勝たせようと横槍を入れたために二人がかりに近い形でウッソを殺そうとする。
ところがクロノクルは結局ウッソには歯が立たず、死亡。カテジナはウッソを油断させて殺そうと画策するも失敗し、それでも何としても達成するべく待ち伏せするなどなりふり構わない様子を見せたが最終的には失敗してウッソは生還。
一方のカテジナは視力を失った状態でウッソ達のいる故郷に現れ、ヒロインのシャクティと序盤でカテジナが抱いた事もある赤ん坊のカルルマンにのみ姿を見せ、そして去っていく。彼女は全てを失い、抜け殻のようになりながら序盤で壊滅的ダメージを受けた故郷のウーイッグに帰っていくのだ。
挿入歌「いくつもの愛をかさねて」のしんみりくるような曲調もあるが、カテジナの最後のシーンは妙に切なくさせてくれる。シリーズきっての切なく、何か物悲しい終わり方なんじゃないかと思えてならない。
結局、ウッソは最終的には彼女が生き延びた事も知らずにようやく戦争から解放されて普通の少年のように生きる権利を得た。カテジナは戦場での暴れぷりと裏切りからか愛した男も視力も湧き上がっていたはずの闘争心もすべて失い、おそらく出来る仕事は変態の相手くらいの状態になってしまった。
富野由悠季監督は「死より重い罰を与えたかった」とも「カテジナを解放するにはこんな終わり方しかなかった」とも語っているが、主人公達を何度も追い詰めたうえに味方キャラクターも鬼神のように撃墜していった「悪女」に対して決して「ざまぁwwww」と言えない終わり方なのは否定しようがない。それは個人差もあるだろうが、様々な悪行を重ねていった悪役が同情的に見られがちな結末を迎えるというのもある意味凄いのではないだろうか?
思えばファンであればあるほど起承転結のどの段階をも語られるキャラクターではないかと思う。そんなカテジナは私にとっては決して外せない「悪女」なのだ。
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