名も無き修羅(北斗の拳)

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登場作品:北斗の拳 分類:国に忠実な戦闘狂型 職業:修羅の国海岸警備隊隊員 立ち位置:修羅の国最初の難敵 悪人度:B カッコよさ:B 強敵度:A 存在感:B 作品貢献度:C 演:松田重治(アニメ版)、貞広高志(真北斗無双) 北斗の拳という作品は基本的には「ラオウ前」と「ラオウ後」に分かれるのではないかと思う。そしてどちらかというと語られがちなのは「ラオウ前」の方ではないかと思うのだが、それはやはりラオウの死をもって作品を完結させようと考えていた武論尊、原哲夫両氏の意思を無視して無理矢理連載を続けさせた編集部にそもそもの原因があると言ってもいい。 おそらく「ラオウ後」の両氏はいわば燃え尽きた後と表現すべき状態だったのだろう。はっきり言って「ラオウ後」つまりアニメでいう「北斗の拳2」はそれまでの展開や描写から矛盾した設定や唐突な設定追加、整合性の取りづらい強引な展開など、(それらは「ラオウ前」にもありはしたが我慢出来るだけのパワーが作品に溢れていた)明らかに作品の質が落ちた感がしていたと言える。 そしてそういった弊害は勿論ストーリーやバトル描写等にも現れてくるのだが、今回紹介する名も無き修羅はまさにそんな弊害から様々な議論の対象になってしまった「面白い」悪役キャラクターなのだ。 そもそもこの名も無き修羅、少々長いので愛称である「砂蜘蛛」と表記していくが、作中の立場はなんと「雑兵」である。これは本人も自覚しており、彼が登場する舞台である修羅の国においては未熟者である名を許されていない修羅というわけだ。 この修羅の国は男児は12歳になると同時に修羅を目指すという掟がある。そして15歳までに100回の死闘を行い、生き残った者だけが生を許されるらしい。彼もこの100人抜きを生き延びた猛者だという事だが、その中でも名を名乗る事が許された修羅こそがエリートという位置付けなのだ。ゆえに男児の生存率は1%といわれている(のわりには男ばかり出てくるが)。 そして砂蜘蛛は名前すらない、強大な国の中ではいわば切れっ端程度の存在でしかないのである。 ところが、彼の場合あくまで「設定」がそうなだけだったのだ。 作中に現れた彼は明らかに雑魚とは一線を画した強者のオーラを漂わせていた。主人公ケンシロウを乗せた船の船長、赤鯱の過去の回想から存在を仄めかされ、傷を負っていたとはいえケンシロウやラオウに近い実力をもつとされるファルコをも瀕死に追い込んだという絶好のシチュエーションで登場したのだ。 私は基本的には北斗の拳は原作派だ。なぜならアニメ版の絵柄はあまり原作の絵柄を再現しきれていないというか、半端な感じがしてあまり好きになれない(声優さんの演技力でカバーしてる感じ)。特に北斗の拳2ともなるとはっきり言ってまったく見ないと言ってもいい。 だがこの砂蜘蛛登場回は何度も見てしまった。すごい強敵が現れた!感が半端ないからだ。砂蜘蛛が登場したところで次回に続くため、壮大なBGMも相まってスゲー好きな回なのだ。 現れた彼に対し、わざわざケンシロウは名前を聞いており、その時点で只者ではない事が分かる。 そして雑魚なら瞬殺してしまい、中堅クラスですらすぐに技を見切ってしまうようなケンシロウを相手に善戦している事から、砂蜘蛛を「雑魚」と表現するのは無理があるのだ。それに短期間のうちに彼は4つもの技を繰り出しており、少なくとも作者が「雑魚」として描いていない事は明らかである。 悪い言い方をしてしまうと、この頃の武論尊氏がいかに適当に話をつくっていたかを象徴するキャラと言ってもいい。 前章で強敵だったファルコを下しているが、作中随一の原理意味不明流派である元斗皇拳すら見下す台詞は修羅の国自体の強大さをもアピールしてくれる。アニメ版においては義足が取れたファルコを容赦なく棍棒で殴りまくる場面があり、悪っぷりも見せてくれた。 彼は最終的にケンシロウとは決着がつかず、ファルコと再戦する事になる。一度ファルコを倒せたのは作中にてケンシロウと戦った後の深手を抱えたまま海を渡ってきた事が原因とされ、ケンシロウが言うには全快ならばファルコが勝つという。 北斗の拳のコメディ作品である『北斗の拳 イチゴ味』では全快のファルコに砂蜘蛛がやられるシーンがあり、この描写に納得している読者が多い事から一般的には全快ファルコ>>砂蜘蛛>>ボロボロファルコという解釈がされているようだ。 言ってしまえばファルコに勝ったのは運が良かったからと言える。ただ、途中殺活孔を打ってもらい、回復したファルコを相手に砂蜘蛛は善戦している事から見てやはりかなりの強さを持っている事は認めざるを得ない。 三羅将クラスとまではいかないながらも、カイゼルやシャチ辺りと互角…もしくは上位と見なされてもおかしくはない。 ここまで読んでもらえばお分かりいただけると思うが、彼は設定の矛盾や作中で強者とされるキャラクターへの勝利描写という物的証拠から強さ議論の対象になりがちなのだ。砂蜘蛛はいわば『修羅の国』という舞台の強大さをアピールするために登場してきたわけだが、誰がどう見てもやりすぎなバグキャラである事は否定しようがない。何せ彼だけが強いならともかく、その後に出てくる名有りの修羅達がはっきり言って大した事ないor雑魚という有様だからだ。 最初の方にも書いたが、この時の武論尊氏がいかに適当に話をつくっていたかがよく分かるキャラクターである。基本的にはラオウ前についてしか語らない作者陣だがきっと砂蜘蛛についても大して覚えていないのではなかろうか。 Yahoo知恵袋など見るとシンやレイ、ユダ。ジュウザ等の設定のわりには作中での強さに疑問があるキャラクターとの対戦カードを組まれる事が多い事から、何だかんだで砂蜘蛛ファンは多いのではないかと思う。 私にとっても『明らかに強そうな格好』『設定に矛盾した強さ』『それまでの敵とは違った攻撃パターン』『手負いの敵にも容赦なく攻撃する悪っぷり』『強者には熱い血をたぎらせる一面』『あれだけの強さを持ちながら他の名有り修羅をたてる素敵な謙虚さ』等、少ない登場の中でふんだんに魅力を見せつけてきた大好きな悪役だ。 ファルコには敗れ、修羅の国には自分よりはるかに強い名有り修羅達が待っている事を口走りながら死亡。ファルコも倒れ、結果的には相討ちに近い形でファルコを退場させた。 物語上の都合とはいえ、あのファルコが修羅の国ではちょっと強い雑兵によって死亡する事になったというのはなかなかデカい事実である。 それにしても、再三書いているが彼以上の強さを持つ修羅達が修羅の国には大勢いるという話ははたして本当なんだろうか?描写から見てもケンシロウに理不尽にやられたナイアル修羅やサモト等明らかに雑魚でしかない名有り修羅もいるし、砂蜘蛛の次に出てきた砂時計のアルフなんかは明らかに砂蜘蛛以下だと思う。 これについては完全に憶測でしかないが、砂蜘蛛は世間知らずというかまったく国の名有り修羅達の実力を見ていないのではないかと思う。同時に手合わせした事等もまったくないのではないだろうか? 前述の通り彼は12歳になると同時に修羅を目指し、15歳までに100回の死闘を行って生き残った。おそらく天才戦士だった砂蜘蛛はそこでの強さが飛び抜けており、ろくに他の修羅との手合わせを経験しないまま海岸の警備隊に配属されたのではないかと思う。現に赤鯱達が敗走した戦いにおいての砂蜘蛛の年齢とそのタイミングが一致する。 この海岸警備隊というのは本土側でぬくぬく暮らしている名有り修羅達と比べるとかなり強い修羅達で組まれていたのだろう。いわばリアルでいう自衛隊みたいなもので、昇進等の甘い汁とは無縁ではあるが実践向きの精鋭部隊と言ったところか。 その証拠として、砂蜘蛛以外の警備隊修羅達も強かった事が挙げられる。倒されたとはいえ砂蜘蛛以外の警備隊修羅もファルコに気配なく接近して一撃与えたり、ケンシロウ相手に一撃喰らったものの瞬殺されなかったり等雑魚と比べて充分健闘しているのだ。 普通に考えれば、修羅の国に進出するための道は例の海岸しかないわけで、そこに強い修羅達を配置しておくのは当然と言える。死の海を渡って侵入してくるという事は腕のたつ実力者である可能性は非常に高い。並の修羅を配置してみすみす侵入されるわけにはいかないのだ。 ましてや、ラオウが存命なら修羅の国に攻めてくるという恐怖がつきまとっていた状況があった。警備隊を強くしておくのは当たり前である。結果的にラオウは死亡し、ラオウ進出の可能性は絶たれたわけだが… 話はそれたが、砂蜘蛛はあまりの天才ぷりにすぐにでも実戦投入しようという事で配属された可能性が高い。ゆえに名有り修羅達との交流を経験する事もなく、青春時代を警備隊で過ごしてしまったわけだ。 そして自分がいかに強いかを名有り修羅と実力比べする事がないまま成長していき、名有り修羅への尊敬と幻想を抱いたままあんな遺言を口走ってしまったのである。 しかし彼のそんな謙虚さと確かな強さに心惹かれた者が多いのは事実。かの有名なストリートファイターシリーズのバルログのモデルが砂蜘蛛だという話もあるし、北斗の拳系ゲームにて隠しキャラ等で出演する事もままあり、中には隠しラスボスだったゲームすらあるという。 今でも議論の種になりうる悪役キャラクター。それがいつまでも名前のない、しかしそれが逆に最大の特徴でもあるこの修羅なのである。 ccb52df7-fd3d-455c-ba69-6312e4b01817
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